サマリー
◆9月22日、ジョンソン首相は議会で新型コロナウイルスに関する声明を行い、第2波到来の見通しが本物であり、英国が危険な転換点に達したことを認めた上で、規制の再強化を発表した。ただし、懸念されていた全国的なロックダウンの宣言ではなかったことに安堵の声が上がっている。英国経済は消費者支出に大きく依存するだけに、ロックダウンによる打撃は他の欧州諸国に比べても大きく、一部閣僚は再導入に強く反対していたとされる。
◆スウェーデンは感染リスクと経済への打撃を勘案し、ロックダウンを義務付けなかった数少ない欧州諸国の一つである。ただし、そのコロナ対策についての成否の見方は分かれている。ロックダウン回避の目的は、集団免疫の獲得とされたが、英国王立医学協会によると、ストックホルムの人口のわずか15%しか抗体を獲得していないことが確認されており、集団免疫の確立に必要な70%からは程遠い状況にある。2020年第2四半期の実質GDP成長率を見ても、ロックダウンを義務付けたEU諸国の中には、スウェーデンよりも経済への影響が軽微だった国もある。この背景には、スウェーデンではあたかもロックダウンがなかったかのように報じられているが、実際には政府の指針に従っての自主的な在宅勤務や公共交通機関利用の自粛など、ロックダウンに近いことが起こっていたことが挙げられる。
◆春のコロナ危機では多大な被害が出たイタリアだが、過去数週間では感染拡大の再燃に見舞われた他の欧州諸国とは異なる様相を見せている。イタリアでの9月以降の一日当たり感染者数は、スペインやフランス、英国とは比べ物にならないほどの低い水準であり、ドイツをも下回る。かなり早期にかつ厳格ロックダウンを行い、解除にも慎重であったイタリアと、ロックダウン導入になかなか踏み切れず、早期解除を急ぎすぎた英国との差が、今になって感染再拡大という形で出てきているとみられている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日