サマリー
◆2008年の金融危機時と比較すると、不良債権処理が求められる企業は航空やホテル、石油産業などが中心となるため、世界各国の金融機関が一斉に危機に陥るというシナリオは想定しづらい。ただし欧銀が保有する、既に長期間ロックダウン(都市封鎖)措置が取られているイタリア企業への貸出金の多くは減損する可能性が高まり、イタリア以外の欧州各国の金融システムにとっても負荷が増幅されることとなる。特に欧米では2018年以降導入された新たな引当金ルールが事態をさらに悪化させ、欧銀の不良債権問題を再燃させる可能性が指摘されている。
◆感染拡大が世界経済に与える影響を懸念しての市場急落は、2008年のリーマン・ショック時とよく比較される。株式市場の暴落や原油価格の急落を受けて主要中央銀行が緊急利下げを実施しているなどの共通点は確かに多い。ただし2008年の危機は、次はどの銀行が破綻するかという疑心暗鬼が流動性の枯渇を招いたことで、企業の信用不安を増幅させたことが要因にある。今回は、新型コロナウイルス感染拡大による実体経済の停滞を受け、企業や家計が資金不足に陥ることへの懸念が本質であろう。
◆米国が史上最大規模の財政刺激策を採用し、無制限の量的緩和をFRBが行うとの発表を受けて、世界の株式相場は歴史的な反発を見せた。しかし、その後株価上昇のモメンタムが失われる場面が多いのは、新型コロナウイルスによる経済への打撃を緩和する金融・財政政策措置に対し、投資家が依然として懐疑的であるためと受け止められている。市場の注目はいまや欧州だけでなく米国の感染拡大がいつ収束するかに向かっており、ニューヨーク州がイタリア並みの死者数の増加となれば、金融市場は更なる混乱が予想される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 追加関税の影響が顕在化
米国向け輸出が急減、対米通商交渉の行方は依然不透明
2025年06月24日
-
欧州経済見通し 対米通商交渉に一喜一憂
米英合意、米中間の関税引き下げは朗報、EUの交渉は楽観視できず
2025年05月23日
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日