サマリー
◆夏季休会の後、9月3日に再開された英国議会では、超党派の議員が、9月4日の議会における議事進行の主導権を握るための(合意なき離脱を阻止する法案を提出するための)動議を提出した。同動議は、即日採決となり27票差で可決された。採決に先駆け、閣僚経験者である保守党のフィリップ・リー議員が、野党の自由民主党への移籍を決めたため、与党保守党と閣外協力にある民主統一党(DUP)の議席数は、わずか1議席差であった議会過半数を失うこととなった。
◆ジョンソン首相は、合意なき離脱を阻止する法案が可決された際には、政府はこれを支持できないとして、総選挙に踏み切ろうとする可能性がある。このため、9月4日には、総選挙の実施を求める動議を提出するものとみられている。ただし、その動議が、議員の3分の2の承認により可決されるかは、造反議員の数からも微妙なところと言えるだろう。労働党が総選挙の動議に応じない場合に考えられる手段として、ジョンソン首相自ら政府に対する不信任決議を提出し、保守党議員に棄権を命じて強引に可決するということも考えられる。
◆ただジョンソン首相は、たとえ離脱期限の延期法案が可決されても、(民主主義への冒涜と野党から強烈な反発を受けながらも)これを無視するのではという懸念は消えていない。法治国家である以上、政府が法律を遵守しなければ、憲政上の危機となることは自明である。ただしジョンソン首相が、停会を強行した今、英国が既にその危機の渦中にあるといっても過言ではない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日