サマリー
◆ECB(欧州中央銀行)は6月6日の金融政策理事会で、「不透明感の長期化」を理由として、政策金利を現行で据え置く期間を「2019年末まで」から「2020年上半期まで」に延ばした。米中対立の激化により世界的に景気減速懸念が強まったことに加え、FRB(米連邦準備制度理事会)がこの夏にも利下げに転じるとの観測が急浮上したことが背景にある。ドラギECB総裁は6月18日の講演で、景気見通しが好転せず、インフレ率の目標達成が困難な場合は「あらゆる手段を講じる」と金融緩和の再開に向けてさらに踏み込んだ発言を行った。ECBも次の一手は利上げではなく、利下げへ完全に転換した。
◆実際に金融緩和に動くかは、景気とインフレ動向及びその見通し次第となる。ユーロ圏の1-3月期の成長率は明確に加速したが、これは3月29日という当初の英国のEU離脱(Brexit)期限に備えた企業の在庫積み増しや家計の買いだめによって押し上げられた側面があり、4月の輸出、生産、小売売上高はそろって落ち込んだ。夏にかけて景気が停滞を続け、低インフレ傾向に変化がなければ、9月のECB理事会で利下げ、あるいは資産買取の再開などの緩和措置が講じられる可能性が高いと考えられる。
◆英国ではBrexitに備えた1-3月期の高成長のあと、4-6月期はマイナス成長に転じると見込まれる。EU離脱期限は10月31日に延期されているが、いつどのようにBrexitが実現するのかは依然として不透明である。辞任を表明したメイ首相の後任には、「EUとの合意があろうとなかろうと10月31日にEUから離脱する」と強硬離脱も辞さない姿勢を示してきたボリス・ジョンソン前外相が就任する可能性が高い。保守党員向けにアピールする期間が終わり、EUとの再交渉が視野に入った時に、新首相のBrexit実現計画がどう軌道修正されるかが次の注目点となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2026年の欧州経済見通し
不確実性低下、財政拡張で景気回復ペースは再加速へ
2025年12月23日
-
欧州経済見通し 成長再加速の兆し
景気の下振れリスク緩和でECBの追加利下げ観測は後退
2025年11月25日
-
7-9月期ユーロ圏GDP 緩やかな成長が継続
フランスの成長ペースが加速し、市場予想からはわずかに上振れ
2025年10月31日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

