Brexitが英国の賃金上昇率に与える影響
短期的には、労働需給はより逼迫し、賃金上昇率が加速
2019年04月11日
サマリー
◆英国のEU離脱(Brexit)は19年3月29日を離脱期限としながらも、その期日は先延ばしされ、まだ実現には至っていない。しかし、Brexitは既に様々な影響を及ぼしている。本稿では、Brexitが英国の賃金上昇率に与える影響を考察し、今後の動向を示してみたい。
◆英国の賃金上昇率は労働市場の逼迫によって17年以降加速傾向にあり、18年11月-19年1月平均は前年比+3.4%と高水準で推移している。この間のセクター別寄与度の推移を見ると、専門・科学・技術サービス、保健衛生・社会事業、宿泊・飲食、運輸・保管など、欠員率が高いセクターで拡大していた。
◆まだ行く末が未確定であるBrexitは、賃金上昇率の決定要因である労働需給に対して既に影響を及ぼしている。「仕事関連」で英国に流入する移民は、EU移民の大幅な流出が主因となり、減少傾向が続く。労働力率は統計開始以来の最高まで高まっており、今後の労働供給余力は限定的であろう。他方、17年以降の賃金上昇率の加速に大きく寄与したセクターでは、Brexitの影響により労働需要が高まっている。例えば、保健衛生・社会事業及び宿泊・飲食セクターではEU移民の流出により就業者数が減少、運輸・保管セクターでは「物流の停滞」への備えから、労働需要の高まりが見られる。欠員率が非常に高水準で推移する中、労働力不足は賃金上昇率が高止まりする主要因になると考えられる。
◆一方で、Brexitは英国の労働需要を後退させ、賃金上昇率を抑制する要因にもなりえるはずである。実際の悪影響はまだ確認されていないが、企業の雇用意欲の減退を示すサーベイが増えてきている。Brexitが英国の景気を大幅に減速させ、企業が実際に雇用の抑制に舵を切った場合、欠員率の低下ひいては賃金上昇率の減速を余儀なくされるであろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年07月07日
低・脱炭素経済に向けた移行計画
~企業に求められるサステナビリティと事業戦略の融合~
-
2022年07月05日
市場制度ワーキング・グループ 中間整理
持続的な経済成長を実現し、成果を家計へ還元する資本市場の諸施策
-
2022年07月05日
ロシア国債デフォルト騒動の本質
返済能力も意思もあるロシア政府は徹底抗戦の構え
-
2022年07月04日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
-
2022年07月07日
何故ロシアの貿易黒字の拡大は「終わりの始まり」なのか?
よく読まれているリサーチレポート
-
2022年05月06日
FOMC 0.50%ptの利上げとQTの開始を決定
少なくとも7月のFOMCまでは毎回0.50%ptの利上げが続く見込み
-
2022年05月25日
日本のインフレ展望と将来の財政リスク
コアCPI上昇率は2%程度をピークに1%弱へと低下していく見込み
-
2022年05月24日
日本経済見通し:2022年5月
経済見通しを引下げ/サービス消費等の「伸びしろ」が景気を下支え
-
2022年05月16日
ウクライナ危機による資源高の影響
短期的には家計が2.0兆円、企業が2.6兆円の負担増に
-
2022年06月08日
第213回日本経済予測(改訂版)
インフレ高進・ウクライナ危機下の世界経済の行方①日インフレ、②米景気後退リスク、③世界的供給問題、を検証