サマリー
◆例年年末に行われるプーチン大統領の年次演説と言えば、大部分が経済状況と福祉の現状についての報告である。それに加え、その時々の政府の課題や方針、プログラム等が発表されている。2018年の年次演説が3月1日に実施された背景には、ロシア経済が15年~16年の景気後退を克服し、17年に再びプラス成長に回帰したことを、大統領選の直前にアピールする狙いもあったはずである。
◆ロシアでは、マクロ経済政策の「構造改革」はある程度成功しているが、起業関連の手続きや汚職問題関連の改革実施は依然として道半ばである。例えば、トランスペアレンシー・インターナショナルが発表する、腐敗・汚職の程度を測る腐敗認識指数のランキングでは、ロシアは180カ国中135位となっており、汚職問題が深刻であることを示唆している。政府は投資環境の改善にも注力しているが、より幅広い分野にわたる構造改革が必要であり、新政権が積極的に改革を続行するか否かが、今後経済成長の行方を占う鍵を握っている。
◆高い経済成長の妨げになっているのは、国内事情により発生する要因だけではない。欧州委員会は18年3月にロシアに対する経済制裁を18年9月まで延長した。時期を同じくして、3月に英国で起きたロシア人の元スパイとその長女の毒殺未遂事件について、英国政府はロシア政府がこの事件になんらかの形で関与しているとし、対抗措置としてロシア人外交官23人追放を決定した。
◆大統領選挙を強く意識した年次演説はロシア経済の現状と今後あるべき姿の青写真のようなものであった。野心的な目標が列挙されたものの、その達成に必要な原動力や投資財源については具体性を欠き、生産性の向上や歳出の効率化、民間資金の活用拡大に言及するに留まった。それが現在、対外的な制約を受けているロシア経済の真の姿の象徴であり、向こう数年間は飛躍的な成長が困難であることを示唆していると言えよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日