遅すぎる出口戦略の副作用(続編)

家計債務発の金融危機は起こるのか?

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2017年08月03日

サマリー

◆イングランド銀行(BOE)が5月の金融政策委員会(MPC)で発表した、楽観的な経済成長やインフレ率の見通しを信じる向きは少なく、次回会合(8月3日)時に発表される(最新の経済見通しや)金融政策の行方が注目されている。ただ市場では、次回会合では約10年振りとなる利上げには至らないと見ており、BOEが金融引き締めに転ずるにはまだ時間を要すると予想する向きが多い。


◆過去の金融危機発生に共通するパターンとしては、最初に、①急激、かつ持続的な不動産および金融資産価格の上昇が起こる。次に②不動産など資産価格の上昇と関連して債務が拡大する(不動産価格の高騰は融資における担保価値の上昇を意味し、信用へのアクセスが良くなることで購買力が拡大)。その後、③融資が銀行預金を上回るペースで増え、銀行は融資増大に対応するために、(短期の)市場からの資金調達への依存を高めるようになる。このサイクルがある程度続くと、金融システムは脆弱となっていく。


◆ただ過去の金融危機発生は、過剰な企業向け融資が一斉に不良債権化することがトリガーとなったケースが多く、家計債務が金融危機の源となったことは少ない。2008年に顕在化した米国のサブプライムローン問題も、本質的には、証券化商品全体の信用問題がその源にあるとされる。それでも、家計債務の増大で金融危機に陥った国として1990年代初頭のノルウェーなどの例も存在する。当時のノルウェーでは、家計が過剰な債務を縮小するために、消費抑制を余儀なくされたことが危機の発端になったといわれている。


◆家計債務発の金融危機がもたらすリスクは、その直接的な損失というより、突然の家計の消費行動変化が結果的に経済成長に大きなインパクトを与え、銀行に甚大な損失を生み出す。これまで大規模な非伝統的金融政策の解除を経験したことがない金融市場において、仮に各国中央銀行が同時に出口に向かったとして、次に何が起こるかは誰も予想がつかない。ただ、次に起こる金融危機が家計債務発になると予想するのであれば、それに対してはこれまでとは異なる監視が必要となる。

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