サマリー
◆ユーロ圏では、2017年第1四半期の実質GDP成長率が前年同期比+1.9%と大きく拡大し、過去12ヵ月間で景況感は劇的に改善した。実際に広範囲な国やセクターで回復が見られており、堅調な労働市場や輸入増により、市場コンセンサス予想も楽観的な見方が拡大している。景気回復が加速しつつある背景には、ECBの非伝統的金融政策の継続により民間セクターのバランスシートが改善し、積極的な投資や消費を支えていることが挙げられる。
◆BISが6月25日に発表した年次報告書は、過去1年で世界経済の景況感が飛躍的に改善したことから、量的緩和と超低金利の金融政策の正常化を図るよう、政策決定者に促している。6月27日のECBフォーラムでの「金融政策におけるいくつかのパラメーターを調整し景気を回復させる」とのドラギ総裁の発言は、非常に緩やかなペースであるもののついに出口戦略が本格的に開始されると市場では解釈された。ただユーロ圏でのインフレ圧力は弱く目標の2%からほど遠いことから、FEDのような迅速な出口戦略にはならないというのがメインシナリオとされている。
◆特にBISは、家計債務の増大を危惧しており、長年にわたり世界の主要中銀が導入してきた非伝統的金融政策が招いた、世界的な債務水準の大幅な上昇は深刻な事態であると強調している。ひとたび危機が起これば、主要国の中銀は、インフレ対策のため金利引き上げを余儀なくされ、現在の経済成長に終止符が打たれるだろうと警告する。特に前回の金融危機の直撃を回避し得たカナダや、中国、タイ、香港などの債務水準は長期平均をはるかに上回るレベルに達しており、金融の過熱ぶりは英米よりもはるかに高いと警戒している。
◆世界の市場や中央銀行の政策担当者が、一種の安心感に浸っている中で、債務危機への警告を率直に発したBISは、ある意味で称賛に値するといえる。ただ世界貿易が回復し、主要経済国の大半でGDPが改善基調にある現状に政策担当者は満足しており、過剰債務による危機の兆しを憂慮するBISからの警告にどれだけ耳を傾けるかは疑問であろう。
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