サマリー
◆6月29日、保守党の施政方針が英国下院で可決され、メイ首相は民主統一党(DUP)との閣外協力を経てようやく少数与党政権樹立に至った。DUPはEU懐疑政党であり、保守党との協力は自然な流れとなるが、今回の閣外協力は、あくまで政府信任や予算、重要なブレグジット関連法案といった主要法案の議決においてのみ保守党を支持する合意である。総選挙での大敗を受け、強硬離脱を目指していたメイ首相は、ソフト・ブレグジットへの方針転換を迫られていることは確かだ。
◆シティの金融機関関係者の多くは、保守党の政権基盤が弱まったことが、ソフト・ブレグジットを招き、当初の想定よりEUへの移動規模を少なくできる朗報を期待していた。ただ現時点では、シティの金融機関関係者の多くは、今回の総選挙結果は拠点移動に関しての影響は軽微という結論に達しつつある。単一市場へのアクセスの維持はすでに絶望的であり、シティでは強硬離脱に備えて事業移転準備を整えている機関が多いのが現状である。
◆最終的な欧州大陸への移動人数は、欧州銀行監督局の移動先などに依存しているとされる。そのため、40万人といわれているシティの金融機関関係者が何人、移動するかは未知数といわれている。ただユーロ建て取引の清算機関の移転を伴う場合は、大規模な人数の移動が伴うとされている。ロンドンは、全世界のユーロ建てデリバティブ商品清算の4分の3を担っており、英国がEUを離脱すれば域外国でその大半の清算を行うことになり問題視されている。
◆前回、英国で少数与党政権が誕生したのは、1974年3月の労働党のウィルソン政権まで遡る。長期的な政権とは受け止められておらず、政権発足のわずか7ヵ月後にやり直し総選挙に追い込まれている。今回、かろうじて少数与党政権を樹立したものの、メイ首相は、不必要な選挙で大敗を招いた責任を問われる形で党首交代を迫られ、再選挙に至るのではという声が日増しに高まってきている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
0.50%への利上げが家計・企業に与える影響
家計では「30~40代」の世帯、企業では「中小」で負担が大きい
2025年01月22日
-
CISA が初の国際戦略を発表
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月22日
-
「103万円の壁」与党改正案の家計とマクロ経済への影響試算(第4版)
71万人が労働時間を延ばし、個人消費は年0.5兆円拡大の見込み
2025年01月21日
-
欧州サイバーレジリエンス法(EU Cyber Resilience Act)の発効
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月21日
-
Scope3排出量の削減目標達成にカーボンクレジットは使えるようになるのか?
2025年01月22日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
-
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日