サマリー
◆2017年に入って米国ではトランプ大統領が就任し、英国ではBrexit(英国のEU離脱)実現に向けた交渉がいよいよ動き出す見込みである。これら「政治波乱」が大きな変化につながることは予想されても、それが欧州経済にピンチをもたらすのか、逆にチャンスとなるのかはまだ分からない。2017年のユーロ圏経済は緩やかな景気拡大が続く一方、英国経済は減速を予想するが、政治要因による波乱には常に警戒が必要である。
◆英国のメイ首相は1月17日にBrexitに関する政策方針を初めて公表した。EU移民の規制権限などの主権回復を優先し、EUの単一市場と関税同盟から完全に離脱する方針が示された。EU離脱後の英国は、EUや米国などと個別に自由貿易協定(FTA)を締結し、グローバルな自由貿易の担い手になることを目指すとされている。移民規制と単一市場へのアクセス維持の両立が困難と予想される中、現実的な路線を打ち出し、離脱交渉開始への地ならしをした点は評価される。ただ、これは長期に及ぶと見込まれるBrexit実現計画の最初の一歩にすぎない。新たなFTAがどのような内容になるか、EU離脱後からFTA締結までの期間について円滑な移行で合意できるかなど依然として不透明材料は多い。
◆英国、ユーロ圏とも消費者物価上昇率の加速が目立ってきた。デフレ懸念後退を受けて、BOE(英中銀)は政策スタンスを緩和から中立へシフトさせつつある。一方、ECB(欧州中央銀行)は12月の理事会で政策金利と資産買取プログラムの現状維持を決めたほか、今後一段の緩和の可能性もあるとのフォワード・ガイダンスを据え置いた。足下の物価上昇率の加速の主因は原油価格の下げ止まりで、より広範囲なインフレをもたらす賃金上昇率の加速などの兆候はまだ見られないというのが理由である。もっとも、もう一つの理由は、トランプ新大統領の政策やBrexit交渉が景気やインフレに及ぼす影響を判断する手掛かりがほぼない状況で、政策変更の判断が見送られたということであろう。次回3月9日のECB理事会はECBスタッフによる景気・インフレ予想が公表されるタイミングでもあり、金融政策のスタンス変更が示唆されるか注目される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日