サマリー
◆6月23日に行われる国民投票を目前に、EU離脱の英国経済への影響をめぐる議論は一段と高まっている。残留派と離脱派がさまざまな観点からそれぞれの立場を主張し合う中で、今後の英国への投資動向も一つの注目点となっている。
◆英国への対内直接投資のストックは2005年以降のトレンドを見ると堅調に積み上がっている。英国の対内直接投資ストックの対GDP比は主要国の中でも突出して高く、また、2005年時点と比較すると大幅に水準を伸ばしている。ただし、フローはこの10年間で減少基調が続いており、2014年は278億ポンドと、2005年の968億ポンドから減少した。とはいえ、外国籍企業が英国内で生み出した対内直接投資収益は、2008年に急減した後年々増加しており、2014年は過去10年間で最大となった。
◆ところで、英国では経常収支の赤字が拡大傾向にあるが、2012年以降の赤字拡大の原因は直接投資収益を含む所得収支の赤字幅拡大である。金融サービス業を中心とするサービス収支のみが黒字であるという脆弱な体質は、今後さまざまなリスクにさらされるたびに状況を悪化させる可能性があり、英国の構造的な問題の一つといえる。しかし、所得収支の赤字幅拡大を悲観視する必要はない。対内直接投資収益の増加は英国での外国籍企業のビジネスが好調であることを意味しており、いずれそれがまた海外からの投資を引きつける要因ともなり、英国の経済成長に寄与するからである。
◆英国への直接投資の呼び込みが生産性、雇用、貿易等の面で今後の経済成長に重要な要素となろう。これまで英国が海外からの投資をひきつけてきた背景に、英国が欧州市場の玄関口であること、法人税が比較的低いこと、海外人材の活用等があり、事業を展開していく上での利点は数多い。6月23日の国民投票で、仮に離脱支持が過半数を占めた場合は、これまでの英国の強みであったEUのゲートウェイとしての機能を失うことになる。急激な資金の引き揚げにまでは至らなくとも、英国への新規の投資は一段と減少することが予想される。投資が抑制され、さらに在英企業の海外流出となれば、労働需要は減少し消費が低迷する等、これまで堅調に推移してきた経済成長にもマイナスの影響を及ぼすことになるだろう。
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