サマリー
◆ユーロ圏経済は金融・債務危機からの回復の途上にあり、2016年も内需主導の緩やかな景気回復が続くと見込まれる。債務危機以降、ユーロ圏加盟国は財政健全化に重きを置いてきたが、大半の国が財政健全化目標を達成しつつある中、難民急増問題への対処やテロ対策に伴う歳出増もあって、財政政策は経済成長の抑制要因から、若干の促進要因へと変わってくると予想する。とはいえ内外需とも急回復は見込まれず、ユーロ圏の消費者物価上昇率は2016年もECB(欧州中央銀行)が掲げる「+2%を若干下回る前年比伸び率」を達成する見通しはまだ立たず、ECBは金融緩和を継続することになろう。ユーロ圏の経済成長率は2016年+1.4%、2017年+1.5%、消費者物価上昇率は2016年+0.8%、2017年+1.6%と予想する。
◆英国経済も2016年は個人消費と投資が牽引役となった景気回復が続くと見込まれる。英国は、金融危機後の景気回復でユーロ圏に先んじており、米国に次ぐ景気回復をみせている。ただ、英国の消費者物価上昇率はユーロ圏と同様に低迷し、米国と比べるとエネルギー等を除くコア物価の伸び悩みが目立つ。BOE(英中銀)は2016年年央に利上げへと踏み出すのではないかと予想するが、そのためには賃金上昇率の動向が注目ポイントとなろう。英国の経済成長率は2016年+2.4%、2017年+2.3%、消費者物価上昇率は2016年+0.8%、2017年+1.6%と予想する。
◆2016年の欧州経済のリスクは、中国経済が持ち直すことができるか、米国の利上げ開始が新興国からの急激なマネーの逆流につながらないかという世界共通のリスクに加え、欧州の政治リスクが指摘される。すでに2015年にEUを目指す難民の急増問題、テロとの戦いが大きな政治課題となっているが、これに加えて英国でEU加盟継続の是非を問う国民投票が2016年に実施される可能性が高い。ここで問題となるのは、これまで統合推進で一致してきたEUが、域内の人やモノの移動の自由という基本原則を維持するのか、それとも修正してくるのか、それがEUの求心力を低下させることにつながらないかということである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日