サマリー
◆2015年9月3日、欧州中央銀行(ECB)は定例の理事会をフランクフルトで開催し、政策金利である主要オペ金利(短期買いオペ:売出し条件付き債券買いオペ=レポ)を0.05%に据え置く決定をした。また上限政策金利である限界貸出金利および下限金利である中央銀行預金金利を同様にそれぞれ0.3%、マイナス0.2%と据え置いている。
◆ドラギ総裁は会見の中で、現行のQEプログラムを調整し、ECBが1銘柄の発行残高に対する購入上限を、従来の25%から33%に引き上げたことを明らかにした。さらに、必要であるならば2016年以降もQEは継続できることを改めて示すなど、追加緩和を匂わす発言が歓迎され、発表直後に外国為替市場で通貨ユーロは売られ、欧州株は全面高の展開となった。
◆会見では、新興国経済の減速がユーロ圏の輸出需要の減速を通じて欧州経済の下方リスクが拡大していることへの懸念が強調された。2015年8月24日の中国株式市場の株価の暴落により、ブラックマンデーを彷彿とさせる大きな相場急落劇が世界中の株式市場で発生している。中国政府は今回の一連の危機対策として、2,000億ドルもの流動性を注入したが、シティでは中国政府の市場介入の規模は小さく、資本逃避が続く中での危機回避には不十分で対応も遅いとの批判が多い。
◆欧州では、相次ぐ政府介入により中国への見方も大きく変化しており、対中国投資への信頼性も揺らぎつつある。無論、中国市場の混乱が各国の中央銀行政策担当者に影響を与えるのはこれからであり、各国中央銀行の制御できない状況が巻き起こるのか、単なる調整局面であるのかを判断するにはもう少し時間を要する。ただし、いずれにしろ、過去の金融危機の教訓を生かして早期に判断することが重要であることには違いない。今回のドラギ総裁の追加緩和を見送るハト派的な判断がどちらに転ぶかは未知数だが、続く米国・日本の中央銀行の舵取りを予想する手掛かりとしては十分であろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日