サマリー
◆欧州では、米国オバマ政権がウクライナ東部地域で親ロシア派との戦闘を継続する政府軍への武器供与を示唆して以降、2度の世界大戦の当事国であったドイツのメルケル首相が戦争回避の調整役として各国との交渉に奔走した。結果的に2月12日にベラルーシ・ミンスクで仏・独・露・ウクライナの4ヵ国首脳会談で停戦の合意(ミンスク合意)にこぎつけ、欧州本土での紛争拡大を水際で食い止めている。
◆昨年12月に通貨ルーブルが危機的な状況に陥った背景には、ロシア国内の原油・ガス等の輸出企業による対外債務返済に対する過度な警戒感が挙げられる。ルーブルの大幅減価によるバランスシートの毀損を警戒した輸出企業が、決済通貨であるドルの売却/ルーブル購入をストップしたため、ルーブルの下落が加速した。ただし、たとえロシア中銀が、今後1年半における全企業の対外債務返済を肩代わりしたとしても、最大でも外貨準備の3割程度を利用するに留まり、当面のところ外貨準備が枯渇する懸念は少ない。
◆この数年間、原油価格の高騰を受け、ロシアの輸出企業は、原油資源を担保とする形で国内よりもコストの安い海外での資金調達に傾斜しバランスシートが外貨建て債務で膨張していった。政府の対外債務が少ないロシアでは、資源輸出企業が先導して高いレバレッジを掛ける経済モデルを創出していたといえよう。しかし、現在では、手元流動性が枯渇した資源輸出企業が、債務返済のために強烈なデレバレッジを進めている状態にある。
◆現在のロシア経済は、政府債務が拡大の一途を辿り、大規模な量的緩和を実施してレバレッジをかける日・米・欧の経済とは逆の方向へと向かいつつある。経済制裁が長期化して外貨が枯渇する中で、旧ソ連時代に戻るような基軸通貨ルーブルでの経済圏復活を視野に入れているとも考えられる。ユーラシア経済連合を例にとるまでもなく、EUと双璧を成す経済圏の確立を推し進めるプーチン大統領の言動は植民地政策時代のブロック経済復活を予感させる。
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