サマリー
◆ECB(欧州中央銀行)は9月4日の金融政策理事会で追加利下げと、ABS(資産担保証券)とカバード・ボンドを対象とする資産買取計画の10月導入を決めた。9月18日開始のTLTRO(民間向け貸出増を意図した条件付き長期オペ)と併せ、銀行貸出の促進が狙いである。6月に決めたTLTROが始動する前に、ECBが追加緩和に動いた背景には、ユーロ圏の景気回復の足取りが鈍ったこと、ディスインフレが長期化していることへの強い懸念が存在している。
◆追加金融緩和による金利低下とユーロ安が景気を下支えすると見込まれるが、気がかりなのはユーロ圏景況感の悪化傾向である。ここが改善しなければ、銀行貸出の回復も期待しがたい。景況感悪化の原因は、地政学的リスクの台頭と、ユーロ圏内の需要不足と考えられる。景気停滞感を打破するために各国レベル、及びEUレベルでの財政政策の有効活用が重要となろう。「借金をして公共投資を拡大するのは間違っている」との持論を崩さないドイツも、研究開発、教育などイノベーション促進のための投資の必要性は認めている。また、EU域内のエネルギー、通信、交通などのネットワーク構築にEUとその資金が貢献することには異論はない模様である。年末にかけて策定される各国の2015年予算、11月発足の新体制の欧州委員会が打ち出す投資促進基金などの議論の行方が注目される。
◆英国の注目点はいつ利上げが開始されるかである。8月に続き、9月の英中銀(BOE)の金融政策理事会でも9人中2人の理事が0.25%の利上げを支持した。内需が牽引する英国経済は前期比+0.7%~0.8%の高成長が続き、5-7月平均の失業率は6.2%に低下した。ただ、賃金上昇率は低水準で、ポンド高による輸入物価下落の影響もあり、消費者物価上昇率は8月に前年比+1.5%に減速した。需給ギャップは縮小しつつあると考えられるが、ユーロ圏の景気停滞、地政学的リスクの台頭などが景気の不安材料である。BOEは物価上昇要因となる雇用コスト、為替、エネルギー価格、食品価格などの動向を注視しつつ、年内は政策金利を据え置く可能性が高まったとみる。最初の利上げのタイミングを2015年1-3月期に先送りし、その後の利上げ予想も順次後ろにずらした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日