サマリー
◆6月5日、欧州中央銀行 (ECB) は、定例の理事会を開き、政策金利である、主要オペ金利を0.1%引き下げ過去最低の0.15%とする決定をした。また上限政策金利である限界貸出金利を0.35%引き下げ0.4%とすると同時に、下限金利である中央銀行預金金利を0.1%引き下げマイナス0.1%とし、主要中央銀行の中で史上初めてマイナス金利の導入に踏み切る決断をした。
◆また会見の中でドラギ総裁は、4年長期固定TLTROs(Targeted Long Term Refinancing Operations)を4,000億ユーロ供給する計画も発表した。この4年長期固定TLTROsは、ECBから(金融機関以外の)ユーロ圏の企業に対する融資額が目標未達と判断された場合は、2016年9月に強制的に償還される貸出条件(コベナンツ)が付随している。これは前回の3年長期固定LTROsを借入れた金融機関の多くが、その供給資金の多くを企業貸出(特に中小企業)へ振り向けず、大幅に値下がりした南欧諸国の国債投資に振り向けたという反省から来ているといえる。
◆マイナス金利の導入に関しては、過去経験がないだけに市場への織り込みは不十分であったといえよう。10月に予定されているストレステストの結果発表に備えて、不良債権処理を押し進め、資本調達を優先していた欧銀にとっては、現段階で融資を拡大させるインセンティブは乏しい。いくら貸出を促せといわれても同じリスク管理能力の銀行が、飛躍的に貸出を伸ばすことは困難であり、せいぜい無難な個人向け住宅ローンが増加することに留まるのではないか。
◆むしろマイナス金利の導入により、現金を自行のバランスシート内に滞留せざるを得ない状態が生じる可能性が高い。そうなると、さらなる資本の調達によりレバレッジを下げるか、既存の貸出債権をオフバランスするしかマイナス金利のコストを補う方法がないといえる。マイナス金利のコストを負担出来ない銀行は、市場からの資本調達も困難となり、当局主導の再編・統合に向かわざるを得ない。このシナリオを十分理解した形で、ECBが今回のマイナス金利を誘導したのだとしたら、各行は想定以上に反発を示すであろう。
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