サマリー
◆アセアンと中国の経済関係は、年々、深まりを見せている。アジア開発銀行のデータによれば、アセアンから中国への輸出とアセアンの中国からの輸入を合計した総貿易額は、1990年ではわずか74億ドルであったが、2016年では、同3,672億ドルと、約50倍に拡大した。貿易拡大のペースは、中国のWTO(世界貿易機関)加盟(2001年12月)、中国とアセアンのFTA(自由貿易協定)署名(2002年11月)等により、2000年代に入り加速している。
◆貿易拡大の背景には、貿易推進が双方のメリットになることがある。すなわち、アセアン側にすれば、天然資源や消費財そして部品等の輸出先としての中国のメリットは大きい。一方で中国側にすれば、アセアンの安価な人件費、アセアンの天然ガスや銅等の天然資源、潜在力あるアセアン国内市場、「一帯一路」構想の実現、米中貿易摩擦回避先等としてのアセアンのメリットは大きい。
◆アセアンの中で、2010年以降、中国との総貿易額の拡大が顕著なのが、ベトナムを除けば、カンボジア、ラオス、ミャンマーである。これら3ヶ国と中国との貿易特化係数を見ると、ラオスとミャンマーが比較的類似した動きとなっている一方で、カンボジアは、やや異なったものとなっている。双方の違いを生み出している大きな要因は、天然資源の有無である。ミャンマーは天然ガス、ラオスは銅が重要な輸出品となっているが、カンボジアでは、天然資源輸出は、ほとんどない。
◆経済発展段階が初期のカンボジア、ラオス、ミャンマーからすれば、中国の資金力は、とても魅力的でありぜひとも活用したいところであるが、一般的に、中国からの海外直接投資は、中国の国益のみを重視したものが多く、自国利益の観点を十分に検討した上での対応が望まれる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
なぜベトナムは「不平等協定」を結ぶのか
米国・ベトナムの「ディール」を解明する
2025年08月14日
-
米国抜きの連携拡大~CPTPPのEU拡大が意味すること
「反米色」を排除しながら自由貿易の枠組みを強化、アジアに恩恵も
2025年07月23日
-
インド経済は堅調か?2025年度Q2以降の見通し
個人消費とインフラ投資がけん引役。利下げが都市部の消費を刺激へ
2025年07月07日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日