サマリー
◆アセアンと日本の直接的な貿易関係は薄れる一方で、アセアンと中国との貿易関係は深まる方向にある。アセアンの輸入全体に占める中国からの割合は、1990年に2.9%にすぎなかったが、2015年では21.8%にまで拡大してきている。こうした背景の一つには、コスト削減に向けて資源の最適配分を目指そうとする日本企業のアジア戦略がある。
◆2000年代初頭より中国進出を加速させた日本企業は、その後の中国の人件費上昇に伴って価格競争力低下に直面したため、更なるコスト削減を求め、アセアン進出を決定した。進出方法は、中国からの工場の一部移転、労働集約型生産工程を中心とした生産委託などである。これに伴い、原材料や部品の中国からの輸入が増加することになり、アセアンの中国からの輸入割合は上昇してきている。
◆国別に見ると、中国からの輸入割合が高いのは、ミャンマー、ベトナムである。ミャンマーは経済制裁下での関係が続いてきたこと、ベトナムは、携帯電話の組み立て拠点となっていることが主な理由である。
◆中国としては、依然として安価なアセアンの労働力やアセアン域内に張り巡らされた生産ネットワークを活用するメリットは、引き続き存在するため、中国からのアセアンへの投資はまだ継続し、結果、中国からの輸入も増加方向となると思われる。
◆ただ、組み立てに必要な部品や原材料がアセアン域内で調達できる体制ができ上がってくれば、中国からの輸入をアセアン域内からの輸入に代替してくる可能性は高いため、今後の、アセアン域内貿易割合の変化は、注目すべき点の一つである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
李在明氏の「K-イニシアティブ」を解明する
大統領選で一歩リードしている李在明氏は、韓国経済と日韓関係をどう変えるのか
2025年06月02日
-
カシミール問題を巡る印パの内情と経済への影響
インドは米国の介入を快く思わないが、経済にとっては都合が良い
2025年05月23日
-
尹大統領の罷免決定、不動産問題が選挙のカギに
賃借人保護の不動産政策を支持する「共に民主党」の李在明氏が、大統領選挙で一歩リードか
2025年04月24日
最新のレポート・コラム
-
消費データブック(2025/6/3号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年06月03日
-
テキサス州による議決権行使助言業者規制
財務的利益以外の要素を考慮する助言である場合、その説明を求める
2025年06月03日
-
2025年1-3月期法人企業統計と2次QE予測
前年比で増収増益も製造業は不調/2次QEではGDPの下方修正を予想
2025年06月02日
-
李在明氏の「K-イニシアティブ」を解明する
大統領選で一歩リードしている李在明氏は、韓国経済と日韓関係をどう変えるのか
2025年06月02日
-
“大規模で美しい”軍事パレードはピーナッツか、それとも特大のプレゼントか
2025年06月04日
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日