中国社会科学院「滬港通(上海と香港の株式市場相互乗り入れ制度)の意義は重大であり影響も大きい」

RSS

2014年07月17日

  • 金融研究所 尹振濤

4月10日、李克強首相はボアオ・アジア・フォーラムの閉会式で行った講演の中で、資本市場の対外開放を含むサービス業の拡大に向けた条件を積極的に整えるため、上海と香港の株式市場の相互乗り入れ制度(通称、滬港通)などを実施し、中国内地と香港の資本市場の双方向の開放と健全な発展を促進していくことを表明した。同日、中国証券監督管理委員会(CSRC)がウェブサイト上で発表した情報によると、同委員会と香港証券先物事務監察委員会(SFC)は、上海証券取引所と香港証券取引所が上海、香港の株式市場において株式取引の相互乗り入れを試験的に行うことを承認している。さらに中国証券監督管理委員会は同月29日、「上海と香港の株式市場相互乗り入れ制度の試験的導入の実施細則」公開草案を発表し、「滬港通」で取り扱う株式の範囲、限度額の規制、取引時間、取引の処理、投資家の参入条件や適合性原則、滬港通の対象ではない株式等が配当された場合の処置など、6つの重要な問題を明らかにしている。このような速いペースで「滬港通」が推進されているのは、この制度が第18期三中全会(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)で提起された「資本市場の双方向の開放を促進する」という目標の第一歩だからである。実施細則の内容を見ると、取引総額、開放規模、投資家の参入条件などには多くの制限があり、市場の期待に応えたとはいい難い。この制限の下では中国内地及び香港の金融市場を牽引するような影響を与えることはできないものの、制度開始自体の意義は大きい。


滬港通によって中国本土と香港の金融資源の整理統合を着実に進め、中国金融市場の国際的な影響力を拡大することによって、上海と香港の国際金融センターとしての競争力を高めることができる。ウォール街やロンドンのシティは、サブプライムローン問題や欧州債務危機などが発生した影響で国際金融センターとしての地位を低下させ、新たな国際金融センター台頭の必要性が高まっている。香港国際金融センターは既に独自の恵まれた条件を備えているが、これに中央政府が後押しする上海国際金融センターが力を合わせれば、海外投資家間で中国金融市場の魅力が高まり、その結果、香港・上海双方が国際金融センターとしての地位を高めることが可能となる。


滬港通の推進は海外からの人民元投資のルートを増やし、また上海と香港を通じた対外資本の人民元への流入を促すため、香港はオフショア人民元取引の中心地としての機能をさらに強めることができる。人民元国際化の過程において、香港は試行地区、推進地区として重要な役割を果たし、人民元のクロスボーダー取引の拠点となってきた。しかしながら、その過程では、資金還流が滞るなどの問題が存在し、香港での人民元の運用は制約されてきた。滬港通は人民元を決済通貨として採用し、香港市場に滞留している人民元に対し合理的かつ便利な投資ルートを提供することになり、人民元の還流にとってプラスとなる。


一方で、滬港通の導入は中国内地の投資家に国際投資ルートを提供し、資本取引の開放がさらに進むことになる。国内の資本の蓄積にもかかわらず、大量の民間資金が様々な制限のため国内に留まらざるを得ず、その結果、非合法の資金調達、及び住宅や鉱物、美術品などの投機的取引が次々と過熱している。もしこれらの資金を国外への投資を可能にし、安定的に利益を得ることができるようにすれば、国内金融市場の安定にも大変有利である。滬港通と「滬台通」、「深港通」、「深台通」は両立するものである。同時に、今後国際化が進む香港取引所が米国や英国など他国の取引所と相互に取引を乗り入れる可能性もある。これは中国内地の投資家が将来、相互取引ルートを通じて米国株を直接購入することも可能であることを意味している。もし滬港通の試験的導入が成功すれば、このモデルを発行市場、さらには債券市場に取り入れて、証券市場の対外開放を徐々に拡大することが可能である。


A株と香港株の相互取引は、現在の創業板市場(中国の新興企業向け証券市場)の高すぎる株式評価、逆に低すぎる優良企業の株式評価などの不均衡な状態をある程度解消し、中国内地の投資姿勢の改善や、証券市場の役割を長期的な資金供給の場へと戻す効果があると考えられる。資本市場における相互取引と情報の共有は、A株の評価を国際市場に連動させ、過大評価された株式への投機熱は徐々に冷めていく。逆に低評価の優良企業の株式は次第に本来の価値を取り戻していく。そして、中国内地における「投機重視、投資軽視」という投資姿勢が改まり、市場に均衡のとれた発展がもたらされるであろう。


滬港通の試験的導入は中国内地の金融監督のルールを国際標準に合わせることに役立ち、他国との金融監督の協調と連携に最適な事例を提供することになる。世界金融危機以来、国際レベルでの協調と連携が各国の金融監督改革の重要な内容となっている。中国内地と香港の監督制度に違いが存在していることは、裁定取引の機会を与えており、一旦金融リスクが発生した場合、国際レベルでの金融監督の協調と連携はさらに重要になる。滬港通の実施は金融監督当局が国家間及び国内の監督機関相互の協調と協力を強化する実験場を提供することになるのである。

(2014年6月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。