2013年6月 「経済の弱い回復が不動産を「虚火」の状態にする」

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2013年07月08日

  • 尹中立

最近、不動産開発業者による土地購入関連のニュースが再び社会の注目の的となっている。統計によると、先の5ヶ月で不動産開発大手10社が土地購入に支出した資金は600億元を超えた。不動産開発業者による土地購入熱の高まりの理由の一つに、資金に余裕があることが挙げられる。万科グループと保利グループ(中国の大手不動産会社)の5月の不動産販売額はそれぞれ142億元と111億元で、ともに前年同月を大幅に上回った。もう一つの理由は、住宅価格の上昇が楽観的な見通しを助長したことである。


不動産開発業者が土地を購入することは正常な行為であるが、新たな不動産価格抑制策が公布されて100日足らずといった状況の中で、住宅価格の上昇が持続しているだけでなく、不動産開発業者が土地を高値で購入する意欲が大きくなっている。中央政府や地方政府にとって、この結果はいくぶん厄介なものとなった。


新たな不動産価格抑制策の出現がこのような結果となっているのは現在の経済状況と密接に関係している。


現在の経済状況では、生産能力の過剰が突出した矛盾となっている。石炭、鉄鋼、セメントなどの建築資材は山のように在庫が積みあがり、販路を探しあぐねているため、不動産投資の拡大が唯一の希望となっている。マクロ経済データを見ると、過去4ヶ月で最も強い数字を出しているのは不動産投資である(輸出入データは表面的には良く見えるが、その伸びは主に香港や台湾からのものであるため、データの信憑性には疑問がある)。仮に不動産価格が落ち込めば、不動産投資が抑制されるのは間違いなく、生産能力過剰が更に際立った問題になる。


住宅価格上昇の真の原因はいわゆる「剛性需要」(なくてはならない需要)ではなく、行きすぎた金融緩和である。2013年第1四半期の社会融資総量(金融セクターから実体経済へ供給される資金の総額)は6兆元余りとなり、2009年第1四半期に次ぐ水準であった。住宅価格の急激な上昇を制御するのに最も有効な手段は信用と通貨量を抑制することであるが、これらは経済の回復過程に影響を及ぼす。そこで新「国五条」(不動産価格抑制策)は不動産譲渡所得税を増税することで住宅価格の上昇スピードを緩めようと試みている。その意図は経済成長に影響を与えずに住宅価格を抑制することである。世界経済が依然として低迷している中、新政府は均衡の取れた安定成長と住宅価格の安定化の間でジレンマに直面している。


信用の拡大と通貨量の増加によって経済成長を刺激する方法は極めて危険であり、中国医学の専門用語で例えるなら、「虚火」(弱っている状態の中で熱が発生すること)という不利な局面が現れやすくなっている。他の業界が不況である中、住宅販売業界だけが好況であるのは典型的な「虚火」の状態である。これと反対に不動産と他の業界が正常な関係である状態は「相輔相成」(お互いに補完しあう)である。具体的には、経済発展による国民収入の増加によって購買力が高まった結果、住宅価格が上昇し、さらに住宅価格の上昇が関連業界の発展を刺激することを指す。


目下の不動産業の情勢と他の業界の情勢は明らかに相反するものである。国民の収入増加のスピードは落ちてきているが、逆に住宅価格は急速に上昇している。不動産業に匹敵する他の業界は見当たらず、不動産業だけが際立っている状態である。住宅価格の上昇は国民の収入増加によるものではなく、急速に拡大した信用が刺激した結果であることに疑いの余地はない。債務の増加が資産価格を押し上げることは金融危機によく見られる現象であり、いったん融資に伴うコストが上昇、もしくは債務の借り換えができなければ全てのゲームは根底から崩壊することになる。


中国医学で「虚火」を治療する方法は原則的に「滋陰降火」(水分を補うなどして熱を下げる)である。中国不動産の虚火を治療するには同様に「滋陰降火」が必要である。ここでの「滋陰」とは、経済構造を調整し、経済の成長の質を高めることである。


※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。

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