サマリー
中国の成長率の減速を巡る議論が絶えないが、2010年の10.6%を直近のピークとして、すでに4年連続で中国の成長率は減速しており、その影響はすでに広く顕在化している。一つは資源価格の下落、そして新興国全般の景気停滞である。世界を先進国と新興国に二分すれば、新興国が資源のネット輸出国である。そのため、その価格下落は交易条件の悪化を通じて、新興国の経常収支を赤字化させ、新興国を少々“Fragile”にするのである。さらに価格下落が資源開発投資などの削減につながれば、内需が縮小する。新興国の中でもブラジルやロシアの体たらくが際立つ根っこに、中国経済の成長鈍化があるということだ。
また、中国の長期にわたる高度成長が続く中で、資源依存度の高い国はもとより、周辺アジア諸国も輸出における対中依存度を高めていった。中国が経済大国化する中で生じた必然的な現象といえるが、中国の減速がより広く、深く波及する素地ができつつあったのである。
以上を考えると、最近の「中国狂騒曲」はいささか奇妙に見える。中国の成長率の減速が4年連続ではなく5年連続になることに、何か決定的な意味はあるのだろうか? 世界経済は、言ってみれば中国の減速にはすでに慣れっこのはずではないか? 一つ考えられるのは、市場が中国政府の能力に関して混同しているのではないかということだ。今回の混乱のきっかけは中国株価の暴落であり、政府の株価下支え策の失敗だった。あの手この手の市場介入策に加えて、金融緩和策が打たれ、直接的な因果関係は微妙だが、人民元も切り下げられた。しかし、株価は下げ止まらなかった。こうした中、中国政府は株価も、為替レートも、経済もコントロールできないのでは、という疑念が強まったのではないか。しかし、こうした疑念に根拠はあるだろうか。中国株価の大暴落には前例がある。上海総合指数は2007年10月から2008年11月にかけて、6,092ポイントから1,707ポイントまで、72%の急落を演じた。株価は昔も今も中国政府の意向通りには動いてくれないのだから、今回のPKOの失敗も、当然視されてしかるべきだった。ところが、中国政府がバタバタとあれやこれやの政策を繰り出し続けたこともあり、中国政府の政策効果に関わる過小評価が蔓延したのではないか。
本質的には、グローバル株式市場や為替レートを混乱の渦に巻き込んだのは、中国株価の暴落でも、PKOの失敗でもない。とめどない中国経済の悪化懸念であった。そして、そこには中国政府が自国経済の制御可能性を喪失したのではないかという懸念があった。しかし、その懸念が株価と実体経済を混同した市場の勘違いによって生まれたものであれば、グローバル市場の混乱は早晩収まる。少なくとも、市場は中国離れすることとなろう。
実際、最近の度重なる景気対策を見れば、政府がとめどない景気悪化を黙視することはあり得ないことははっきりしている。また、このところ不動産価格が上昇に転じているが、これはまさに政策効果の顕在化の一例である。中国の実体経済に関しては、特に現在の市場のセンチメントに照らせば、アップサイドリスクに注意を要する局面にあると思われる。
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