中国の原子力発電の行方

今月の視点

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2011年04月25日

  • 経済調査部 研究員 新居 真紀

サマリー

中国は、2010年10月の「戦略的新興産業の育成・発展加速に関する国務院の決定」で、原子力、太陽熱、太陽光、風力、バイオエネルギーなど新エネルギー産業を七大戦略的新興産業のひとつと位置付け、積極的な育成方針を示した。また、今年スタートした第12次5ヵ年計画では、特に原子力と水力に注力することを明記している。共通項は「原子力」である。

2011年3月の発電量に占める火力の割合は84.4%、水力が10.7%であるのに対し、原子力はわずか1.8%にとどまる。福島県の原子力発電所で起きた放射能漏れ事故は、中国政府にとっても安定的な経済成長と環境保護の両立を実現すべく、まさにこれから非化石燃料による発電技術を発展・定着させようとしていた矢先の出来事であった。

実際に、中国では原子力発電容量を2010年の1080万KWから、2020年までに7000万KWに高めるため、原子炉建設が積極的に進められてきた。しかし、中国の電力業界団体によれば、今回の事故を機に、立地の再検討や当初計画の縮小の可能性をも含めた見直しが行われているという。風力発電や太陽光発電などのクリーンエネルギーへの期待もある程度は高まろうが、現時点では電力の安定供給や費用対効果といった面での問題点も多く指摘されている。結局のところ、ある程度時期は後ずれしても計画は粛々と進められる可能性が高いのであろう。

福島の原子力発電所の事故後、中国国家品質監督検査検疫総局は3月24日に関東5県で生産された野菜や乳製品、水産物等の輸入を禁止することを発表した。4月8日には対象を広げ、12の都県で生産された農作物等についての輸入禁止に加え、検疫の強化を求めた。中国国内での風評の影響は深刻で、事故発生直後には微量のヨウ素が含まれる塩の買い占め・買い漁りが発生し、日本食レストランの利用者が急減した。従来以上に、政府の正確な情報発信と省エネ推進のための知恵の結集が求められており、これは世界に共通する課題である。

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