成長鈍化が促す金融・資本市場改革

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2012年05月28日

サマリー

中国はこれまで経済成長の原動力として“三為主、二致力、一促進”という理念、即ち、外資・工業・輸出の3つを軸にハイテク産業と高付加価値サービス業の2つを育成し、経済技術開発区を多機能総合産業区へと発展させることを重視してきた。しかし、外資導入金額(実行ベース)は11年に前年比9.7%増の1,160億ドルとなったものの、単月でみると12年4月までの6ヵ月間は前年比マイナスが続いている。成長余力が期待される“中西部”や“農業”をキーワードに、日本・台湾などのアジア圏が投資の下支えをしているが、欧州債務危機を発端とする輸出減速に加え、中国の物価・賃金コストの上昇、投資先としての東南アジアの台頭が、中国への直接投資の勢いを削ぐ要因となりつつある。優遇税制や参入緩和などで促進してきた“引進来(外資導入)”による成長刺激政策の効力は限界に近づいていよう。

一方、“走出去(中国からの対外直接投資の推進)”政策は漸く軌道に乗ってきた。中国の非金融機関の対外直接投資額(実行ベース)は、11年に前年比1.8%増の600.7億ドルとなった後、12年1-4月期は72.8%増の231.6億ドルと大きく増加している。中国商務部は第12次5ヵ年計画期間中、外資導入の目標を年約1,200億ドル、対外直接投資の目標を年平均17%増やして15年には1,500億ドルにするとしており、この規模の逆転は中国が“引進来”を維持する難しさを認識しているためとも捉えられる。

こうしたなか、中国政府はCEPAやECFAを活用し、金融・資本市場の改革に着手している。具体的には人民元の国際化や点心債(オフショア人民元建債券)の活用促進、先物取引市場の拡充などが、昨年から想定以上の速さで進んでいる。台湾と相互に銀行の出資規制緩和を加速させ、5月の米中戦略・経済対話では国有企業の配当性向の引き上げを表明し、コーポレート・ガバナンスの改善を図る姿勢をみせた。この改革を金融・会計を中心にサービス業の幅を広げ、質的向上の契機としたいところだ。中国市場・企業へのアクセスのしやすさが向上し、企業経営インフラがより整備されれば、これまで中心だったグリーンフィールド投資から証券投資にまで外資導入の幅が広げられる機会となろう。成長鈍化が鮮明になればなるほど、改革のスピードが問われるが、“引進来”の再点火として、その舵取りに世界が注目している。

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