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証券詐欺の再発防止はどうするか?

—通報と報奨金による動機付け—

政策調査部 主席研究員 鈴木 裕

サマリー

AIJ事件は、日本版マドフ事件ともいわれるように、両事件には多くの共通点がある。損害金額に数十倍の開きはあるが、謎めかした運用技術を売り物にしながら、詐欺的な手法で被害を拡大していった経緯は、瓜二つだ。同業者の間では、疑いを持つ者が少なくなかったところや、監督当局が早期に調査する機会があったことも似通っている。

マドフ事件では、同業投資会社のクオンツアナリストだったハリー・マルコポロスが、証券取引委員会(SEC)に5回にわたって通報している。マルコポロスが行った調査の過程で、少なからぬ業界関係者がマドフを疑わしく思っていながら、何の行動も起こそうとしなかったことに驚いたという。

AIJ事件でも金融庁・証券取引等監視委員会は、年金専門誌「年金情報」関係者等から数回の情報提供を受けている。また情報受付窓口には、05年度以降、AIJ投資顧問について4件の情報提供があったこともわかっている。これら提供された情報の内容は明らかではないが、調査の端緒にはなり得たのではないだろうか。年金運用コンサルタントの間では、運用実態が不明確なためAIJを推奨しないという判断が行き渡っていたようだが、それを広く知らしめる努力は払われなかった。

SECも金融庁・証券取引等監視委員会も、膨大な情報(苦情や相談を含む)提供を受け付けており、全てに対応するのは難しいのは確かだろう。証券取引等監視委員会の情報受付窓口には、年間約6,000ないし7,000件の情報が寄せられており、金融商品取引業に対する情報だけでも年間1,000件程度であるから、重大な事件の前兆が埋没してしまうこともあり得よう。また業界関係者の立場からすれば、通報をしても相手方の恨みを買うだけであれば、自分には一文の得もない。

今後、事件の再発を防止し、早期発見システムを構築する上では、重大情報が浮かび上がってくるような仕組みを作らなければならない。これにはマドフ事件後のSECの対応が参考になる。リーマン・ショック、マドフ事件を経て、米国金融改革法(いわゆるドッド=フランク法)では、SECに通報した者に報奨金を与える制度が設けられた。通報によって発覚した不正行為に制裁金が科された場合、その10%~30%を通報者に与えるというものだ。同様の制度は他に既に設けられており、不正請求防止法(False Claims Act)では、9600万ドルの報奨金を得た者がいるという。巨額の報奨金を目当てに業界の事情通が通報するようになれば、質の高い情報提供が増加し当局の目に着き易くなるはずだ。マドフ事件のマルコポロスは、こうした動機付けなしに通報したのだが、多くの人は悪事を見ても自分に関わりがなければ知らぬ振りをする。このような物言わぬ多数派の正義の心を喚起するために、金銭的動機を与えるということである。実際報奨金制度導入後、SECには価値の高い情報("high-value" tips)の提供が急増しているという。

今回の事件に対する法制度面の対応として、デリバティブやオルタナティブ投資のポジション規制や情報開示の強化などは的外れなように思える。調査の契機となる質の高い情報提供を促す仕組みを作ることを考えるべきだ。運用のプロが見れば、すぐに怪しいとわかるような事案であったならば、同業者に口を開く動機を与えればいいのである。
 

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