地域包括ケアシステムは、地域住民が重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい、医療、介護、予防(疾病予防、介護予防)、生活支援(掃除、洗濯、買い物、ゴミ出し等)が一体的、包括的に提供される、地域の支援・サービス提供体制をいう(※1)(図表)。要介護者だけでなく、介護者を含む、地域の全ての住民のための仕組みであるが、要介護者のボリュームゾーンは高齢者であるため、まず高齢者を支える仕組みづくりを中心に推進されている。

日本は、人口の高齢化が急速に進んでおり、平成37年(2025年)には高齢化率が約30%に到達し(※2)、団塊の世代が後期高齢者となることが予想されることから、医療や介護の需要が急増することが見込まれている。このため、住民が高齢者を支えながら暮らす地域包括ケアシステムの構築は、平成37年を目途に進められている。
住民が、高齢になっても住み慣れた地域で過ごすことはQOLの向上にもつながる。高齢者世帯は、単身・夫婦のみ世帯が増加すると見込まれることから、高齢者が疾病を抱え要介護状態になりながらも、地域で暮らし続けるためには、医療機関・介護施設によるサービスの充実だけでなく、高齢者の生活を地域社会全体が支えていく仕組みが必要となる。そのため、地域での構築単位としては、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(具体的には中学校区)が想定されている。
地域包括ケアシステムの仕組みは、必ずしも自宅での在宅介護・在宅医療のみを指すわけではなく、住民ニーズに応じた多様な居住の場を含む体制が地域で整備(※3)されることが重要である。地域包括ケアシステムには、自宅だけでなく、ケアハウス、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)(※4)、有料老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、特別養護老人ホーム、老人保健施設等で、必要な時に医療や介護を受けながら共同生活を送る生活スタイルも含まれる。
特に、今後高齢者の急激な増加が見込まれている大都市圏近郊では、地域コミュニティのつながりが希薄であり単身世帯も多いことから、建設費と改修費について国の補助を受けられる(※5)サ高住の整備によるコンパクトシティの構築が、さまざまな業種の民間事業者または産学連携により推進されている(たとえば、千葉県柏市と東京大学(高齢社会総合研究機構)による取組み(※6))。
地域包括ケアシステムは、住まい、医療、介護、予防、生活支援、に関わる、医療機関(病院、診療所)、介護関連施設、地方自治体、地域住民(NPO、社協、老人クラブ、自治会、民生委員等)だけでなく、民間事業者(商店、コンビニ、郵便局、銀行等)も参画して事業が推進されていくことが大きなポイントになる。地域包括支援ネットワークの構築において中核を担う機関として、「地域包括支援センター」が設置されている(※7)(全国4,328か所:平成24年4月現在(※1))。
地域包括ケアシステムは、広島県御調町(みつぎちょう)(現 広島県尾道市御調町)にある公立みつぎ総合病院の山口昇名誉院長・特別顧問が提唱したことが始まりであり、御調町の地域包括ケアシステムは、全国的にも有名な取組みとして知られている(※8)。
(※1)厚生労働省ウェブサイト「地域包括ケアシステム」
(※2)国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2014)」
(※3)厚生労働省 平成17年総合評価書「医療提供体制評価書」別紙1
(※4)平成23年の「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により創設された介護・医療と連携し、高齢者の安心を支えるサービスを提供するバリアフリー構造の住宅である。(国土交通省ウェブサイト「サービス付き高齢者向け住宅」参照)
(※5)国土交通省ウェブサイト「サービス付き高齢者向け住宅」
(※6)国土交通省 サービス付き高齢者向け住宅の整備等のあり方に関する検討会 第1回検討会(平成26年9月8日開催)資料5「コンパクトシティの推進について」
(※7)厚生労働省ウェブサイト「地域包括支援センターの手引きについて」
(※8)全国国民健康保険診療施設協議会ウェブサイト「地域包括ケアシステム」
(2014年11月21日掲載)
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