水質汚濁防止法

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2013年01月30日

  • 岡野 武志

公害問題の深刻化を受け、1958年に「公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法)」と「工場排水等の規制に関する法律(工場排水規制法)」が制定された(合わせて「水質二法」と呼ばれている)。しかし、水質二法は、指定された水域だけを規制対象とすることやいわゆる経済調和条項が盛り込まれていたことなどから、公害を未然に防ぐ機能には限界もみられていた。そこで、1970年のいわゆる公害国会において、水質二法を廃止して新たに「水質汚濁防止法(※1)」が制定され、水の汚濁に対する未然防止的な規制が図られている。


水質汚濁防止法は、汚濁物質の主要な発生源である工場や事業場から公共用水域に排出される水と地下に浸透する水を規制することとしており、水質二法時代の指定水域主義が改められている。また、有害物質や汚染水を排出する施設は「特定施設」とされ、特定施設を設置する工場や事業場を「特定事業場」として、規制対象の中心に位置づけている。特定施設については、水質汚濁防止法施行令(※2)で定められており、100余りの施設カテゴリーが示されている。2012年3月末現在の水質汚濁防止法(及び瀬戸内海環境保全特別措置法)に基づく特定事業場の数は266,860となっており、そのうち一日あたりの平均排水量が50㎥以上の特定事業場は12.6%(33,529事業場)となっている(※3)


水質汚濁防止法では、特定施設から排出される汚水又は廃液を「汚水等」とし、特定事業場から公共用水域に排出される水を「排出水」と定義している。排水基準は、排出水の汚染状態について、環境省令で定めることとされているが、国の排水基準では人の健康を保護し、又は生活環境を保全することが十分でないと認められる区域があるときは、都道府県の条例で、国の排水基準で定める許容限度よりきびしい排水基準を定めることができるとされている。特定事業場からの排出水については、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならないとされており、排出水の濃度が規制されている。一方濃度規制だけでは、希釈することにより多量の汚濁物質が排出可能になることや、瀬戸内海、東京湾などの閉鎖性水域の汚濁が懸念されたことなどから、汚濁物質の総量についても1978年の改正により規制が設けられている。


水質汚濁防止法では、有害物質による汚染状態(健康項目)とその他の汚染状態(生活環境項目)が規制の対象となっており、健康項目としては、カドミウム、シアン化合物、鉛、六価クロムなど28項目が定められ、許容限度が設定されている(※4)。生活環境項目については、水素イオン濃度や浮遊物質量、大腸菌群数など15項目について許容限度が示されている。健康項目についての規制はすべての特定事業場に適用されるのに対し、生活環境項目についての規制は、一日あたりの平均的な排出水量が50㎥未満の特定事業場には適用されないことになっている。また、水質汚濁防止法は、1990年の改正により生活排水対策の推進についても規定を設けているが、国民の責務については、「何人も、公共用水域の水質の保全を図るため、調理くず、廃食用油等の処理、洗剤の使用等を適正に行うよう心がけるとともに、国又は地方公共団体による生活排水対策の実施に協力しなければならない」という内容にとどまっており、必ずしもすべての排水が規制されていない側面もある。


(※1)「水質汚濁防止法」法令検索システム

(※2)「水質汚濁防止法施行令」法令検索システム

(※3)「水質汚濁防止法等の施行状況」環境省

(※4)「排水基準を定める省令」法令検索システム


(2013年1月30日掲載)

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