コンパクトシティ
2012年10月01日
コンパクトシティには多様な概念があり、国際的・国内的に共通の定義はない。元々は、膨張する都市から郊外の豊かな自然や農地を守るための概念とされる。その後、経済社会の進展と共に都市化が進んだ結果、長時間通勤や慢性的な交通渋滞等の負の側面が大きくなり、さらに最近では少子高齢化も加わって、医療や福祉等の住民サービスの効率が低下していること等を背景とした概念に広がっている。
内閣の「都市再生基本方針」(※1)では、都市機能をコンパクトなエリアに集中させる都市構造へと転換することが重要であり、「都市の基本的構造の在り方」として「長年続いていた都市の外延化を抑制しつつ、都市の機能を中心部に集約するとともに、必要に応じ、都市外延部の自然再生等を進める必要がある」としている。
2012年に公開されたOECDの報告書(※2) では、コンパクトシティの主要な特徴として「高密度で近接した開発形態」「公共交通機関でつながった市街地」「地域サービスや職場までの移動の容易さ」の3点を挙げている。またコンパクトシティ政策の目的は、都市の持続可能性(環境の質・社会的公正・経済活力)を達成することであるとしている。同報告書では、公共交通機関へのモーダルシフト(輸送・交通手段の転換を図ること)成功例として、日本の富山市を紹介している。
よくある誤解
・「コンパクト」な都市なのだから、東京のような巨大都市圏にはあてはまらない
⇒都市のサイズがコンパクトであることではない
・コンパクトシティを推進すると都市の緑化等が阻害される
⇒前述のように「環境」も重要なファクターとなっており、自然と共生することはコンパクトシティの要素の一つである
・コストを度外視しても自然を守るのがコンパクトシティである
⇒持続可能な都市であるためには、経済的にも持続可能である必要がある
・限界集落や中山間地域の切り捨てである
⇒コンパクトシティは、都市のスプロール化(無秩序な外延化、肥大化)を避けることであり、長期間存在していて、文化的にも成立している集落を中心市街地に集約する、ということではない
主な課題
・国、地域によって、望ましいコンパクトシティのあり方が千差万別である
・コンパクトシティの効果測定方法が確立していない
・コンパクトシティの負の影響が不透明である
(※1)内閣官房 地域活性化統合事務局 内閣府 地域活性化推進室~地域活性化統合本部会合~ 関連法令・関連閣議決定 平成24年8月10日 「一部変更 都市再生基本方針」
(※2)2012年9月11日 OECD・政策研究大学院大学「セミナー:『コンパクトシティ政策とグリーン成長』」で配布された報告書『OECDグリーン成長スタディ コンパクトシティ政策 世界5 都市のケーススタディと国別比較』
(2012年10月1日掲載)
(2014年7月28日更新)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連キーワード
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年05月24日
欧州経済見通し まとわりつく負のオーラ
ウクライナ侵攻の長期化によって、不透明さを払拭できず
-
2022年05月24日
日本経済見通し:2022年5月
経済見通しを引下げ/サービス消費等の「伸びしろ」が景気を下支え
-
2022年05月24日
中国:ゼロコロナ政策下の中国経済の行方
年後半は明確に回復も22年は4.5%程度の実質成長にとどまると予想
-
2022年05月24日
第213回日本経済予測
インフレ高進・ウクライナ危機下の世界経済の行方~①日インフレ、②米景気後退リスク、③世界的供給問題、を検証
-
2022年05月24日
ESG投信のウォッシュ問題
よく読まれているリサーチレポート
-
2022年03月22日
日本経済見通し:2022年3月
ウクライナ情勢の緊迫化による日本・主要国経済への影響
-
2022年01月24日
円安は日本経済にとって「プラス」なのか「マイナス」なのか?
プラスの効果をもたらすが、以前に比べ効果は縮小
-
2022年03月23日
ロシアのウクライナ侵攻で一気に不透明感が増した世界経済
-
2022年02月10日
ロシアによるウクライナ侵攻の裏側にあるもの
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の誤算
-
2022年03月17日
FOMC 想定通り、0.25%ptの利上げを決定
ドットチャートは2022-24年にかけて、計10.5回分の利上げを予想