2025年05月13日
サマリー
◆米国において、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の推進に対するバックラッシュ(反動、揺り戻し)が勢いを増している。近年の米国における「DEIバックラッシュ」は、明確な背景や目的を持った個人や組織の運動によって仕掛けられたものである。その初期には一部の企業のLGBTQ+に関する取組みが標的とされ、その後、大企業のDEI全般へと標的が移されていった。
◆バックラッシュの担い手は、株主提案を手段として企業にDEIの中止等を要求している。しかし、そのような株主提案はほとんど賛成を得られずに否決されており、運動に対する投資家の支持はまったくといってよいほど集められていないと考えられる。国際社会は、人権の観点から米国企業にDEIの維持を求めている。
◆第2次トランプ政権の誕生は、リスク回避的な企業行動を誘発している。特に、法的責任の観点から、連邦政府と取引関係のある企業等を中心に取組みからの撤退が広がるかもしれない。一方、企業の社会的責任としての取組みまでもが停滞するとすれば、市民社会の多様なステークホルダーとコミュニティに対する影響が懸念される。
◆マイノリティの権利保障が後退している今だからこそ、DEIの推進は、企業が人権を尊重し、社会的責任を果たすための企業行動として大きな意義を持つ。米国の法的・政治的環境の下で事業活動を行う日本企業がこれからのDEI推進のあり方を検討する上では、バックラッシュに立ち向かった米国企業の対応が参考になると考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
今なお不十分な米国企業のダイバーシティ
複合マイノリティを取り残さないインターセクショナリティの視点を
2024年10月28日
-
LGBTQ+の人権をめぐる国連の活動の展開と日本企業への示唆
「国連LGBTI企業行動基準」を参照し国際的に通用する取組みを
2023年06月05日
同じカテゴリの最新レポート
-
生活費危機の時代に重要な「生活賃金」
多様なステークホルダーとの「賃金をめぐる対話」が企業の課題に
2025年09月18日
-
EUサステナ開示規制の域外適用見直しへ
米国とEUは関税合意の一部としてサステナ開示の域外適用を見直す
2025年09月12日
-
機械学習による有価証券報告書(2025年3月期)の人的資本開示の可視化
経営戦略と人事戦略の連動や、指標及び目標の設定に課題
2025年08月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日