「京都議定書」が終わり、新たな「攻めの地球温暖化外交戦略」が始まる

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2013年11月26日

  • 大澤 秀一

サマリー

第19回気候変動枠組条約締約国会議(COP19、ポーランド・ワルシャワ)が開かれている最中、環境省は、日本の2012年度の温室効果ガス(GHG)の総排出量(速報値)が13億4,100万トン(二酸化炭素換算、以下同じ)になったことを発表した(2013年11月19日)(※1)。これにより、京都議定書第一約束期間(2008~12年度)の5カ年平均の実質排出量は11億5,700万トン(1990年度比8.2%減)となり、削減約束に掲げてきた11億8,600万トン(同6%減)は達成される見込みだとしている。最終的な実質排出量は2014年度に実施される国連の審査で確定するが、東日本大震災以降、火力発電の増加によって化石燃料消費量が大幅に増加したにもかかわらず、我が国は削減約束を果たしたことになる。


5カ年の実質排出量の内容は、この期間の年間平均総排出量では12億7,900万トンで1990年度よりも1.4%増加したものの、国内300万ha超の森林経営(森林の機能を十分に発揮するための間伐等の作業)で4,800万トン分の排出量を相殺し、さらに京都議定書の京都メカニズムによって政府および民間が外国政府等から有償取得した7,400万トン分のクレジットを削減分として算入したものになっている(図表)。

図表 京都議定書第一約束期間(2008~12年度)の排出量推移

翌20日、政府はCOP19において、2020年度に達成すべき排出量の新目標として13億トン(2005年度比3.8%減)を表明した(※2)。原発稼働率の低下で達成が難しくなった1990年比25%減に替わる当座の削減目標である。排出量の算出方法でこれまでの5カ年(2008~12年度)と大きく異なるのは、京都メカニズムが原則利用できないことだ。京都議定書第二約束期間に参加しない日本やロシア、ニュージーランドなどの国に適用される共通のルールとなっている(※3)。ただし、政府は途上国との間で独自の排出量取引制度(「二国間クレジット制度」(※4))を準備していることと、途上国における環境対策に3年間で1兆6,000億円の資金を拠出することを合わせて表明した。安倍政権が推し進める、技術で世界に貢献していく攻めの地球温暖化外交戦略(※5)の始まりである。


大きく後退した新目標への批判は甘んじて受けざるを得なかったが、二国間クレジット制度や資金拠出等によって、気候変動枠組条約の究極的な目的である「適切な水準で大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」の達成に向けて、引き続き前向きに取り組くんでいくことを説明した。


(※1)環境省報道発表資料(2013年11月19日)
(※2)「UNFCCCのウェブサイト」(旧「COP19のウェブサイト(動画)」)
(※3)外務省のウェブサイト(ドーハ気候ゲートウェイの決定事項)。森林吸収源等は,第二約束期間に参加しない国も含め第二約束期間におけるルールにしたがって算定・報告を行う。
(※4)新メカニズム情報プラットフォームのウェブサイト
(※5)外務省報道発表資料(2013年11月15日)

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