オバマ政権の気候変動対策

国内政策を固めて、外交に踏み出す

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2013年07月09日

  • 大澤 秀一

サマリー

オバマ大統領は2013年6月、気候変動対策について演説を行い、政権二期目(2013年~2016年)の政策方針「大統領気候行動計画(The President’s Climate Action Plan)」を公表した(※1)。国内政策はこれまでと大きく変わらず、天然ガス等の利用拡大を柱に温室効果ガスの排出削減に取り組む方針だ。一方、外交は中国やインドとの調整を進めて、今後、国際的な取組みを主導していくことを宣言した。


「大統領気候行動計画」は、1)国内の炭素汚染削減策、2)国内の気候変動影響への適応策、3)国際的な取組みの主導、の3本柱から構成されている。1)の炭素汚染削減策では、最初に最大排出セクターの発電所の規制策について記述されている(図表1)。新設発電所に対しては、炭素排出基準を設けるよう環境保護庁(EPA)に指示している(※2)。一部の議員は経済活動を後退させると反発しているが、現行の大気浄化法の下で規制が進む見通しである。また、既設発電所にも何らかの排出基準が設けられる可能性があるため、天然ガスの利用や高効率化技術、二酸化炭素回収貯留技術(CCS)等の利用が進むと予想される。他には、再生可能エネルギーを2020年までに倍増させること、最新バイオ燃料や小型原子炉技術などクリーンエネルギーへのイノベーション投資を継続すること、2014年以降に製造されるトラックやバスなどの大型車両に燃費基準を適用すること(※3)、建築物の省エネルギーに取り組むことなどの幅広い分野で炭素汚染削減策を推進していくことが述べられている。


2)の適応策については、もはや気候変動の影響が避けられないとして、道路、橋梁、海岸線などのインフラを強化し、異常気象から住居や仕事および生活を守るための政策が列挙されている。


3)の国際的な取組みについては、米国が主に国連の外で行っている活動について記述されている。ほとんどの主要排出国(※4)が参加する「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」(MEF)(※5)を主催していることや、新興国とのクリーンエネルギーの協力体制の構築、米中合意による代替フロン(HFC)削減策の実行などが例示されている。


 

図表1 米国のセクター別温室効果ガス排出量の推移

図表1 米国のセクター別温室効果ガス排出量の推移

(出所)EPA資料から大和総研作成


昨年11月の議会選挙で共和党が下院で過半数を維持したため、議会の賛成が必要となる新たな国内政策の立法は依然見込めない。今回の国内対策が目新しさに乏しい内容になったことは仕方ないことであろう。その分、現時点で実施可能な幅広い分野の政策が網羅されており、実現性は高いと評価できる。特に、石炭よりもクリーンなシェールガス等の天然ガスの利用が拡大すれば温室効果ガスの排出削減に大きく貢献するものとして期待される。ただし、シェールガス等の開発や操業で環境問題が指摘されており、環境調査(※6)の結果次第では、生産計画に狂いが生じる可能性はある。


一方、議会に大きく縛られない外交政策として、国際的な取組みを主導していくと宣言したことは注目される。京都議定書の締約国でない米国は、これまでは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)を主導する立場にはなかった。しかしながら、ロシア、日本、カナダが相次いで京都議定書第2約束期間(2013年~2020年)の参加を見送ったことや、天然ガスの利用拡大でUNFCCCに登録している2020年の削減目標(※7)の達成が可能な水準と見込まれることなどから立場が変化している。オバマ政権の狙いは、UNFCCCで議論されている2020年以降の“将来枠組み”のあり方をめぐる国際交渉を有利に進めることにある。MEFで中国やインド等から将来枠組みに参加しやすい条件を引き出すことができれば、UNFCCCにおける米国の影響力は強まっていくであろう(図表2)。今後の気候変動交渉の動向が注目される。

図表2 主なMEF参加国・地域の二酸化炭素排出量推移

図表2 主なMEF参加国・地域の二酸化炭素排出量推移

(出所)国際エネルギー機関(IEA)資料から大和総研作成


(※1)「大統領気候行動計画」および演説動画は米国政府ウェブサイト
(※2)EPAウェブサイト
(※3)EPAウェブサイト
(※4)参加国は、日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシア、中国、インド、韓国、オーストラリア、メキシコ、南アフリカ、ブラジル、インドネシア、欧州連合の17か国・地域。
(※5)MEFウェブサイト日本の活動は外務省ウェブサイト
(※6)例えば、EPAは2010年から2014年まで帯水層汚染リスクを調査中
(※7)削減目標は2005年比で17%減。2011年末時点の進捗は6.9%減。

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