2013年05月02日
サマリー
地域産の木材を活用した木造住宅の新築や内外装の木質化、木製品・ペレットストーブ等の購入に対して、地域の農林水産品などの商品と交換できるポイントを付与する「木材利用ポイント事業」(以下、「同事業」)が4月1日から始まった。普段、消費者が気に留めていない木材の産出地を意識してもらい、地域材を積極的に活用してもらう林業政策の一つである(※1)。
予算は、林野庁の概算要求額55億円を大きく上回る410億円が緊急経済対策(2012年度補正予算)として計上された(※2)。消費者が基準を満たした住宅を新築した場合、30万ポイント(1ポイント=1円)が付与されることなどが決まっている。予算額は住宅およそ13万7千戸分で、新設住宅着工戸数(2012年の木造住宅)の約3割に相当する。林野庁は関連産業に2,200億円の経済効果があるとみており、事業者等からも地域材需要の呼び水として十分との声が聞かれる。付与対象や付与数、申請方法、ポイント交換方法などの詳細は決まり次第、改めてウェブサイト等(※3)で公表されることになっている(図表1)。

用材(木造住宅などの建築物に用いられる木材)の自給率は、1960年代の輸入自由化以降、急速に低下し、2000年に18.2%まで低下した。2011年は26.6%まで回復したが、市場規模が縮小しているだけで、国産材の供給量そのものは2,000万㎥前後を低位で推移している(図表2)。同事業の政策目標は、地域材需要を大きく喚起することで、2015年度に用材の供給・利用量を2,800万㎥に増やし、2020年には木材自給率50%の実現を目指すことである。また、木材利用ポイントが地域産品と交換されることで林業の活性化だけでなく、農山漁村地域の振興に資することも含まれている。

政府が地域材利用の拡大を目指す理由は、戦後、造林された人工林が木材として利用可能な時期を迎える一方で、国産材の需要低迷などによって森林の手入れが十分に行われず、水源かん養や二酸化炭素吸収など森林の持つ公益的機能が低下していることが背景にあるからである。地域材の活用は林家に木材販売収入をもたらし、間伐や再造林の費用に充てられることで森林・林業の再生につながることが見込まれる。
同事業の経済効果は住宅建築に必要な数年で表れるとみられるが、森林・林業の再生は植林から伐採までの年月を考えると最低でも50年以上が必要となる。同事業が住宅や家電のエコポイント並みに注目され、多くの消費者の間で森林・林業の現状と課題が共有されることに期待したい。
(※1)木材需要に対する政策として、 2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、2012年からは地域材を活用した住宅補助金事業の「地域型住宅ブランド化事業」などが始まっている。
(※2)林野庁ウェブサイト
(※3)木材利用ポイントのウェブサイト
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
ESGスコアの成長率と企業パフォーマンス
「社会」に関する取組みの中長期的な継続と向上の重要性
2025年06月26日
-
投資家の自然資本/生物多様性に関する評価軸
Nature Action 100、Springが示す枠組み
2025年06月20日
-
スチュワードシップとESGは別モノ:英FRC
英国でスチュワードシップの定義を変更、ESG要素を削除
2025年06月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日