米国大統領選における環境・エネルギー政策
2012年09月07日
サマリー
8月から9月にかけて、米国では民主・共和両党の党大会が開かれ大統領選に向けた候補者が正式に決定するとともに、政策綱領(※1)が明らかにされた。環境・エネルギー政策については、両党ともに原子力発電を支持し、エネルギー安全保障を唱えており、表面的には一致しているように見えないでもないが、その細部には極めて大きな対立がある。もっとも、この対立は二大政党間にあるだけでなく、選挙区や支持母体の構成によっては、同じ党内でも、見解が大きく異なる。実際、オバマ政権発足直後は、上下院で民主党が多数を占めていたが、グリーン・ニューディールの目玉の一つとなっていた包括的な環境・エネルギー政策に関する法案が廃案に追い込まれたことからもわかるように、具体的な各論に至れば党内でも深刻な対立がある政策分野である。エネルギー政策における両党の相違が分かりにくくなっている理由の一つは、シェールガス、シェールオイルの開発促進という点で両党が共通しているからであろう。前回選挙でオバマ大統領は、海外に依存しないエネルギー源として再生可能エネルギーを掲げたが、この4年間で米国のエネルギー事情は様変わりしている。国内産のシェールガスの開発が進みエネルギーの海外依存率は劇的に低下したばかりか、雇用を大規模に創出している。これを一層促進しようとする点では両党とも同じであるが、共和党は大幅な規制緩和によって従来型の石炭・石油の開発も進めようとしているのに対して、民主党は環境との調和を重視する。また、カナダのオイルサンドをメキシコ湾岸にまで輸送するパイプライン建設の是非も分かれている。
こうした対立のベースには、地球温暖化対策の政策的優先順位に関する考え方の違いがある。民主党では温暖化を米国と地球全体への脅威ととらえ、この問題への取り組みのリーダーシップを維持することを重視しているが、共和党側にとって温暖化対策の優先順位は低い。米国の大気や水質は、改善しており、今は行き過ぎた規制を緩和することによって、経済を一層活性化するべきというのが共和党の主張である。この考え方は、ガス・石油の産出地域や農業州から選出される少なからぬ民主党議員の中にも共有する者がいるので、仮にオバマ再選となろうとも、温暖化対策の大幅な進展は期待しづらいだろう。
参考レポート
環境社会レポート 2012年5月18日「オバマ政権のクリーンエネルギー投資の行方」(物江陽子)
ESGニュース 2012年4月20日「シェールガス開発により、米国の再生可能エネルギー政策は後退するか」(物江陽子)
(※1)民主党、共和党
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