2012年04月20日
サマリー
2012年4月13日、オバマ大統領は、非在来型国産天然ガス開発に関する大統領令を発令し、非在来型国産天然ガス開発が雇用創出のほか、石油依存度低下と環境負荷低減にもつながるとして、省庁をまたぐ作業部会を設置し、開発を後押しする方針を表明した(※1)。
非在来型天然ガスとは、従来のガス田以外から生産される天然ガスを指し、主にコールベッドメタン(石炭層に含まれる天然ガス)やタイトサンドガス(砂岩に含まれる天然ガス)、シェールガス(頁岩に含まれる天然ガス)などをいう。
なかでも、このところ生産が急拡大しているのがシェールガスだ。天然ガスは2010年に米国の一次エネルギー供給の29%を占めたが、このうち58%を非在来型天然ガスが占め、なかでもシェールガスの割合は23%に達した(※2)。米国における天然ガスの生産量は1973年をピークに減少傾向にあったが、シェールガスなど非在来型天然ガスの生産拡大によって2006年以降増加に転じ、2011年には生産量の記録を更新した(図表)。米国エネルギー情報局は天然ガスに占めるシェールガスの割合は今後も増加し、2035年には49%に達すると予測している(※3)。
シェールガスが増産の勢いを増す一方で、陰りが見られるのが再生可能エネルギーである。米国エネルギー情報局は、1月に発表したエネルギー見通し速報(Annual Energy Outlook 2012 Early Release Overview)で、2012年から2022年までのシェールガスの年間生産量を前年の予測から5~11%程度上方修正したが、再生可能エネルギー(水力除く)については同7~10%程度下方修正している(※4)。オバマ政権成立当初、国産クリーンエネルギーの代表格とされた再生可能エネルギーだが、主役はシェールガスに交代しつつあるようにも見受けられる。
ただし、今のところ、オバマ大統領の再生可能エネルギー政策には大きな変更は見られない。1月の一般教書演説では、オバマ大統領は長年にわたる政府の支援がシェールガスの採掘技術の発展に貢献したとして、再生可能エネルギーへの公共投資についてもシェールガス同様の効果を期待し、政策支援を継続する方針を示した(※5)。実際、2月に議会に提出した2013年度予算教書では、再生可能エネルギー及びエネルギー効率化関連予算を前年度比30%増額している(※6)。オバマ大統領の方針通りに予算が成立するかは議会の動向を注視する必要があるが、オバマ大統領が引き続き政権に就くこととなれば、再生可能エネルギーはシェールガスを補完する国産エネルギーとして引き続き政策支援がなされる可能性もあろう。
一方、1月のESGニュース(米国大統領選挙と環境・エネルギー政策)で報告したように、秋の大統領選挙に向けて、共和党の指名獲得が確実視されているロムニー氏は、オバマ政権の再生可能エネルギー政策は費用対効果が低いとして批判し、シェールガス開発へのさらなる規制緩和を求めている。政権交代があれば、国産エネルギーの柱としてシェールガスへの政策支援はさらに強まり、一方で再生可能エネルギー政策は後退する可能性がありそうだ。
(※1) The White House (April 13, 2012) EXECUTIVE ORDER-SUPPORTING SAFE AND RESPONSIBLE DEVELOPMENT OF UNCONVENTIONAL DOMESTIC NATURAL GAS RESOURCES.
(※2) EIA (2012) Annual Energy Outlook 2012 Early Release Overview.
(※3) EIA (2012) Ibid. 予測は2012年1月時点。
(※4) EIA (2011) Annual Energy Outlook 2011およびEIA (2012) Ibid.より大和総研推計。
(※5) The White House (January 24, 2012) Remarks by the President in State of the Union Address.
(※6) OMB (2012) Fiscal year 2013 Budget of the U.S. Government.
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
機械学習による有価証券報告書(2025年3月期)の人的資本開示の可視化
経営戦略と人事戦略の連動や、指標及び目標の設定に課題
2025年08月01日
-
サステナビリティWGの中間論点整理の公表
2027年3月期から順に有価証券報告書でのサステナビリティ開示拡充
2025年07月28日
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日