2012年05月25日
サマリー
5月18日のエネルギー・環境会議(国家戦略室)において、今夏の電力需給対策が決定された。電力会社別に対一昨年比で関西15%以上、九州10%以上、北海道・九州7%以上、中部・北陸・中国5%以上の節電要請を行うとのことだ。昨年は、東北・東京電力管内で法的措置による電力使用制限令(※1)が発動されたが、今年は節電要請にとどめるという。
電力会社10社より公表された2011年度の電力需給実績をみると、震災および節電の影響から総販売電力量は前年度比5.1%減少した。用途別に見るとオフィスビルなど業務用電力の需要が前年度比8.4%減少と減少率が最も大きく、中でも電力使用制限令が発動された東京電力管内の2011年7~9月における業務用電力の需要は前年比19.7%減少した。一方、前年比10%以上という節電要請があった関西電力管内の同時期における業務用電力の需要は前年比7.6%減少にとどまった(図1)。今年、関西電力管内において電力使用制限令を発動せずに15%以上の需要減を達成できるのか不安は残る。
図1 業務用電力需要(特定規模需要/業務用)
(出所:電気事業連合会公表資料より大和総研作成)
このような中、新たな節電サービスの活躍が期待される。電力の「見える化」サービスだ。昨年の節電効果は、照明の間引きや空調の運転制御など、ソフト面の省エネルギー方策によるところが大きかったとみられる。「見える化」サービスでは、顧客にエネルギー計測・管理システムを導入、収集したデータを分析して省エネルギーの方策を提案する。ソフト面の省エネルギーを進める上でシステム導入が効果的だが、事前に導入効果がわかりにくいことが普及のネックとなってきた。しかし、昨年の節電対策により、ソフト面の省エネルギーの効果が認識され、さらにコスト削減という「利益」を生み出したことに気が付いた経営者も多いだろう。
一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)(委託元:経済産業省)は、本年4月に「エネルギー管理システム導入促進事業」による21社の「BEMS(※2)アグリゲータ」を採択した(※3)。「BEMSアグリゲータ」は、複数の中小ビル等にBEMSを導入してエネルギー管理を行う事業者のことを示す。SIIは、アグリゲータを通じてBEMSを導入する中小ビル等に設備補助金を付与する(図2)。システム投資やエネルギー管理を行う余力のなかった中小ビルにおけるエネルギーの「見える化」を後押しすることが狙いだが、さらにもう一つの狙いがある。需要家をまとめるアグリゲータを育てることだ。
アグリゲータを育てる動きは、東京電力と原子力損害賠償機構が公募した「ビジネス・シナジー・プロポーザル」においても見られる。複数の需要家をとりまとめ、何らかの手法を講じることで(BEMSや省エネ機器導入など)ピーク需要抑制を行うと、東京電力から対価が支払われる仕組みで6件のビジネスプランが採択された(※4)。
需要家をアグリゲート(集約)してビジネスを行うアグリゲータの存在は、電力自由化の進む欧米では既に多くみられている。需要家をまとめて交渉力を持ち、電力一括購入によるコストダウンや、電力逼迫時に一斉に需要抑制(デマンドレスポンス)を行うことで電力会社から対価を得るサービスなどへの展開が可能になる。現在、日本でも家庭部門を含めた電力小売全面自由化の議論が進行中であるが、実現すればアグリゲータビジネスの可能性は益々広がるだろう。
さらに、こうしたソフトビジネスは、急成長により慢性的な電力不足に苦慮するインド、中国、東南アジア諸国など新興国でも望まれている。我が国におけるエネルギーの効率化が進むことはもとより、ソフトビジネスの発展が日本の競争力向上につながることにも期待したい。
図2 BEMSアグリゲータ スキーム図
(出所:一般社団法人環境共創イニシアチブ公表資料より大和総研作成)
(※1)電気事業法第27条に基づき、大口需要家(契約電力500kW以上)における使用最大電力を制限する措置。2011年夏期、東京電力、東北電力管内では、使用最大電力を前年比15%削減することが求められた。
(※2)ビル等の建物内で使用する電力消費量等を計測蓄積し、導入拠点や遠隔での「見える化」を図り、空調・照明設備等の接続機器の制御やデマンドピークを抑制・制御する機能等を有するエネルギー管理システム(出所:一般社団法人環境共創イニシアチブ)
(※3)経済産業省 ニュースリリース「エネルギー利用情報管理運営者が採択されました~第一次採択分として21事業者をBEMSアグリゲータとして登録~」(平成24年4月4日)
(※4)東京電力 プレスリリース「電力デマンドサイドにおける「ビジネス・シナジー・プロポーザル」の審査結果について」(平成24年3月19日 )
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