2012年02月03日
サマリー
SRIはESG要因を投資プロセスに加えることで、運用パフォーマンスの向上や社会への貢献等を目指す投資とされている。そこで、ESG要因としてCDP(Carbon Disclosure Project)のパフォーマンススコアを取り上げ、株式リターンとの関係を分析した。
CDPは、地球温暖化問題等に対する企業の対応について広範な調査を行っているイニシアチブで、毎年、世界の企業に対してアンケートを送付し、気候変動等に関する取り組み、温室効果ガスの排出量の測定や管理等に関しての開示を求めている。そして、その開示内容にもとづいてディスクロージャースコアとパフォーマンススコアを算出している。ディスクロージャースコアは、質問に対する回答が適切であるかを評価したもので、最大を100としてスコアリングされている。そして、このディスクロージャースコアが50以上の企業を対象に、気候変動問題等に対して望ましい対策をとっているかを評価したものがパフォーマンススコアで、各企業のスコアはA、A-、B、C、D、Eの6つのバンドで公表されている。
本稿では、2011年11月に公開された「CDPジャパン500レポート2011」に掲載されているパフォーマンススコアで分析を行った。パフォーマンススコアによる評価対象となっている企業は、気候変動対策に関する情報開示を適切に行っていること、スコアが高いほど望ましい対策をとっていると評価されることから、このスコアが株式リターンと何らかの関係を持っていることが期待される。
図表1が、日本企業のパフォーマンススコアバンドの度数分布である。評価対象となった企業は147社であったが、そのうちの4割強(64社)の企業が「いくつかの気候変動対策を行っており、何らかのレベルで戦略にも組み込んでいる」とされるバンドCに入っている。そして、「気候変動対策の完成度が高い」とされるA/A-は6社、それに次ぐBは23社であった。一方、「気候変動戦略がほとんどないか限られている」とされるDの企業も3割程度(44社)ある。
図表1 日本企業のパフォーマンススコアバンドの度数分布

(出所)CDPより大和総研作成
図表2が、スコアリング対象企業全体(スコア全体、147社)と、スコアバンドがC以上の企業(スコア上位、93社)、D以下の企業(スコア下位、54社)を対象に株式リターンを算出した結果である。具体的には、各年の年末時点でそれぞれの等金額ポートフォリオを作成し、翌年末までの1年間そのポートフォリオを保有し続けることを2011年12月までの7年間繰り返し、その結果を累積したリターン指数を図示した。
まず、スコア全体と配当込みTOPIXの動向をみると、スコア全体は2005年から2006年にかけての上昇期に市場全体を超えて上昇したことでリターン指数の水準に格差が生じたが、その後の2008年の金融危機による下落が市場より大きかったためその差が縮小した。そして、金融危機後の市場上昇期には再び市場全体よりも大きく上昇し、その後は市場全体よりも高い水準で推移している。次に、スコア上位と下位をみると2007年頃までは同程度の水準となっていたが、2008年以降はスコア上位の方が高い水準で推移している。
図表2 リターン指数の動向(2004年12月末=100)

(出所)CDP、東京証券取引所等より大和総研作成
リターンの動向を詳細にみるために1年ごとの累積リターンを算出し、配当込みTOPIXに対する超過リターンを図示したのが図表3である。まず、スコアリング対象企業全体の超過リターンをみると、分析期間の7年間のうち5年間の超過リターンがプラスで、超過リターンがマイナスの年もそのマイナス幅はかなり小さい。また、スコア上位の超過リターンは7年間の全てでプラス、スコア下位は4年間がプラスとなった。特に、スコアの高い企業が時期を問わず市場に対する超過リターンを実現しているようである。
図表3 各年の配当込みTOPIXに対する超過リターン

(出所)CDP、東京証券取引所等より大和総研作成
以上の結果から、気候変動問題に対する情報開示を適切に行っている企業のリターンは株式市場全体をアウトパフォームする傾向がみられること、パフォーマンススコアとリターンに正の関係が存在していることが示唆される。また、CDPの調査結果はCDPのWebサイトで公表されており、ESGを考慮した投資を行う際の有用な情報のひとつとして活用できるのではないか。
ただし、調査レポートの内容をみると課題も存在しているようである。世界全体の企業を対象とするグローバル500とジャパン500の項目別の平均パフォーマンススコアを比較すると、日本企業は排出量報告に関してはグローバル500と同等のスコアとなっているが、他の項目(ガバナンス、戦略、ステークホルダーエンゲージメント)のスコアは低い。また、CDPの調査に対する回答率はグローバル500が81%、欧州企業を対象としたヨーロッパ300が91%であったのに対し、ジャパン500は43%にとどまっている。2011年は東日本大震災の影響で回答を辞退するという要因もあったようだが、2010年の回答率も41%でありCDPへの情報開示はまだ積極的とは言えまい。CDPは551の機関投資家(合計運用資産額71兆ドル)が署名しており、調査への回答は投資家への情報開示として大きな意味があると考えられる。今後、日本企業には気候変動問題への取り組みと、その情報開示をますます進展させることが望まれる。また、投資家は企業に対して気候変動問題への取り組みや適切な情報開示を求めていくことが必要なのではないか。
CDPは、地球温暖化問題等に対する企業の対応について広範な調査を行っているイニシアチブで、毎年、世界の企業に対してアンケートを送付し、気候変動等に関する取り組み、温室効果ガスの排出量の測定や管理等に関しての開示を求めている。そして、その開示内容にもとづいてディスクロージャースコアとパフォーマンススコアを算出している。ディスクロージャースコアは、質問に対する回答が適切であるかを評価したもので、最大を100としてスコアリングされている。そして、このディスクロージャースコアが50以上の企業を対象に、気候変動問題等に対して望ましい対策をとっているかを評価したものがパフォーマンススコアで、各企業のスコアはA、A-、B、C、D、Eの6つのバンドで公表されている。
本稿では、2011年11月に公開された「CDPジャパン500レポート2011」に掲載されているパフォーマンススコアで分析を行った。パフォーマンススコアによる評価対象となっている企業は、気候変動対策に関する情報開示を適切に行っていること、スコアが高いほど望ましい対策をとっていると評価されることから、このスコアが株式リターンと何らかの関係を持っていることが期待される。
図表1が、日本企業のパフォーマンススコアバンドの度数分布である。評価対象となった企業は147社であったが、そのうちの4割強(64社)の企業が「いくつかの気候変動対策を行っており、何らかのレベルで戦略にも組み込んでいる」とされるバンドCに入っている。そして、「気候変動対策の完成度が高い」とされるA/A-は6社、それに次ぐBは23社であった。一方、「気候変動戦略がほとんどないか限られている」とされるDの企業も3割程度(44社)ある。
図表1 日本企業のパフォーマンススコアバンドの度数分布

(出所)CDPより大和総研作成
図表2が、スコアリング対象企業全体(スコア全体、147社)と、スコアバンドがC以上の企業(スコア上位、93社)、D以下の企業(スコア下位、54社)を対象に株式リターンを算出した結果である。具体的には、各年の年末時点でそれぞれの等金額ポートフォリオを作成し、翌年末までの1年間そのポートフォリオを保有し続けることを2011年12月までの7年間繰り返し、その結果を累積したリターン指数を図示した。
まず、スコア全体と配当込みTOPIXの動向をみると、スコア全体は2005年から2006年にかけての上昇期に市場全体を超えて上昇したことでリターン指数の水準に格差が生じたが、その後の2008年の金融危機による下落が市場より大きかったためその差が縮小した。そして、金融危機後の市場上昇期には再び市場全体よりも大きく上昇し、その後は市場全体よりも高い水準で推移している。次に、スコア上位と下位をみると2007年頃までは同程度の水準となっていたが、2008年以降はスコア上位の方が高い水準で推移している。
図表2 リターン指数の動向(2004年12月末=100)

(出所)CDP、東京証券取引所等より大和総研作成
リターンの動向を詳細にみるために1年ごとの累積リターンを算出し、配当込みTOPIXに対する超過リターンを図示したのが図表3である。まず、スコアリング対象企業全体の超過リターンをみると、分析期間の7年間のうち5年間の超過リターンがプラスで、超過リターンがマイナスの年もそのマイナス幅はかなり小さい。また、スコア上位の超過リターンは7年間の全てでプラス、スコア下位は4年間がプラスとなった。特に、スコアの高い企業が時期を問わず市場に対する超過リターンを実現しているようである。
図表3 各年の配当込みTOPIXに対する超過リターン

(出所)CDP、東京証券取引所等より大和総研作成
以上の結果から、気候変動問題に対する情報開示を適切に行っている企業のリターンは株式市場全体をアウトパフォームする傾向がみられること、パフォーマンススコアとリターンに正の関係が存在していることが示唆される。また、CDPの調査結果はCDPのWebサイトで公表されており、ESGを考慮した投資を行う際の有用な情報のひとつとして活用できるのではないか。
ただし、調査レポートの内容をみると課題も存在しているようである。世界全体の企業を対象とするグローバル500とジャパン500の項目別の平均パフォーマンススコアを比較すると、日本企業は排出量報告に関してはグローバル500と同等のスコアとなっているが、他の項目(ガバナンス、戦略、ステークホルダーエンゲージメント)のスコアは低い。また、CDPの調査に対する回答率はグローバル500が81%、欧州企業を対象としたヨーロッパ300が91%であったのに対し、ジャパン500は43%にとどまっている。2011年は東日本大震災の影響で回答を辞退するという要因もあったようだが、2010年の回答率も41%でありCDPへの情報開示はまだ積極的とは言えまい。CDPは551の機関投資家(合計運用資産額71兆ドル)が署名しており、調査への回答は投資家への情報開示として大きな意味があると考えられる。今後、日本企業には気候変動問題への取り組みと、その情報開示をますます進展させることが望まれる。また、投資家は企業に対して気候変動問題への取り組みや適切な情報開示を求めていくことが必要なのではないか。
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