2011年09月16日
サマリー
図表1 中国内で公表されたCSR報告書数の推移

(出所)商道縦横(SynTao)「価値発現之旅2010-中国企業可持続発展報告研究」
SynTaoの報告書によると、CSR報告書を公表した企業の約78%が国有企業であり、同じく73%が上海や深圳証券取引所等に上場する企業であった。この背景には、中国政府が2006年に会社法を改正した際にCSRに関する条項を追加する等国策としてCSRの普及推進を進めており、特に国有企業に対して様々な形でCSRへの取り組みを求めていることが挙げられる。業種別では、その他製造業(※3)、金融、精錬、電力、運輸・倉庫・郵政等においてCSR報告書を開示している企業が多い。
また、今回の調査では、食品産業、金融業のCSR情報開示と、各社の「CO2情報」の開示動向に焦点を当てた分析も行っている。近年、中国内では「食の安全」に関する事故や事件等が増加しており、同調査によって企業は消費者や現地メディアからの厳しい監視の目を向けられている。しかし、「食の安全」に関する取り組みを開示する企業が比較的少なく、情報量・開示内容ともに不十分であることが明らかになった。さらに、情報開示の程度に企業間で大きな差異が見受けられ、食品関連産業全体では多くの点で改善の余地があることが指摘されている。
一方で、金融業はCSRに関する情報開示が進んでいると紹介されている。多くの銀行・金融機関が、CSRに関する情報の開示を積極的に行っていると同時に、投融資の際に環境等CSRの要素を配慮する「グリーン金融」についての取り組みを紹介している点が評価されている。
「CO2情報」の開示動向については、気候変動問題への企業の対応を求める機関投資家の連合であるカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)により選定された「2010年CDP中国100社」をサンプルに分析を行った。中国CDP100社の多くが気候変動問題に対して「関心を持つ」、または「重要性を感じている」旨と、取り組みをCSR報告書に記述している。その一方で、エネルギー消費量等の関連情報を開示する企業は60%あるが、CO2排出量をデータとして開示している企業は少なく、改善が待たれると指摘されている。
報告書では、CSRの情報開示は徐々に進んでおり、積極的に情報を開示する企業も目立つ一方で、消極的な企業も多いとしている。また、情報開示の内容の質の向上についても改善の余地が見受けられる企業も多く、中国におけるCSRの普及は全体としては発展途上にあるとして、今後各社の一層の努力が求められるとしている。
今回公表された報告書でも指摘されているように、CSR活動とその情報開示の普及には大きな改善の余地が見受けられるものの、中国内で事業活動を行う企業の情報開示は今後も拡大すると思われる。関連する動きとして、エネルギーや交通等のインフラ、重化学工業、兵器等中国経済の基幹を担う有力な国有企業(中央企業)の監督官庁である国有資産監督管理委員会が、120社に及ぶ中央企業全社に2012年までにCSR情報の開示を求める方針を示している。
2011年7月に中国内で発生した鉄道事故の車両を製造していた「中国南車グループ」も中央企業の一つであり、同社が来年度以降どのような情報開示を行うかも注目される。同社は今回の事故に関しては同社に責任はないとの声明を出しているが、今回のような大事故に関連した企業としてどのような言及を行うのかは、同社単独の問題だけでなく、政府が推進しているCSR政策が実際にどの程度各社に浸透しているかを測るうえで重要となるであろう。
さらに、中国の政府系シンクタンクである社会科学院が、2009年、2010年と2年連続で中国内において事業を行う企業のCSR関連情報の開示に基づくランキングを公表していることも注目される。ランキングの公表を受け、日系企業を含む外資系企業が中国内でのCSR情報の開示を加速させており、中国に進出する企業は今後、CSR活動の実施と関連情報の適切な開示をバランスよく行うことが求められるであろう。
(※1)本調査では、持続可能性報告書、社会的責任報告書、企業社会責任報告書、公民報告等をCSR 報告書として調査対象としている。
(※2)中国石油天然気集団(ペトロチャイナ)が「2009年度社会責任報告」、「スーダンにおける中国石油」の2冊を発行したため。
(※3)紡績、医薬、自動車、製紙、電子製造等を除く製造業を指している。
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