国際統合報告委員会のパイロット・プログラムがスタート

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2011年08月19日

  • 山口 渉

サマリー

地球環境や天然資源の有限性に関わる課題が、企業経営に対する新たな制約条件としてクローズ・アップされて久しいが、投資家としてもこの問題を無視して企業に資金を提供し続けることは難しい。企業存立の前提条件に、地球環境などへのコミットメントが必須なものとしてクローズ・アップされていることから考えれば、企業はいわゆるステークホルダー全般への説明責任を負っているとも言える。これらのことから、環境や人権対応、企業統治といった非財務情報の開示の重要性が増すことはあっても低下することはないだろう。

ところが、サステナビリティ・レポートなどによる非財務情報の開示は、企業の自主性に委ねられる部分が多く、財務情報のような首尾一貫した制度的枠組みは存在しないのが現状だ(※1)。他方、財務情報を中心とした、現状の企業開示制度についても、冒頭に述べた新たな経営課題への対応事項を適切に反映することは困難であるという問題が指摘されている。経営環境が変化する中、企業情報の開示が抱える問題点として浮かびあがっているのは、持続可能社会の構築に向けた企業の取組みと財務パフォーマンスが関連付けて体系的に開示されていないため、ステークホルダーや投資家などが包括的な実態把握や比較分析などを行うにあたり、必ずしも有用な形で情報が提供されているとは言えない現状だ。

この点、持続可能な社会の構築に貢献する企業活動を的確に評価できるよう、非財務情報と財務情報を統合した情報開示の国際的な枠組み作りを目指す主導的な動きとして、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)や投資家団体などが参加する国際統合報告委員会(International Integrated Reporting Committee=IIRC(※2))がある。先ごろ、IIRCでは、統合報告のパイロット・プログラムの実施を表明し、プログラム参加企業の募集を行った(7月末に応募締め切り)。

参加企業には、トップ・マネジメントによるコミットメント、統合報告の実施に向けた意思表明文書、フィードバックを提供する意欲のほか、5,000~10,000ポンドの参加費が求められることとなっている。他方で、プログラムの期間中、IIRCからの情報提供など、様々なサポートを受けられるほか、統合報告の公開草案(2011~2013年に実施予定)や、最終フレームワークの作成過程といった、統合報告のあり方を決めるプロセスに参画することができるメリットもある。

本プログラムでは、10月から約1年間にわたり統合報告フレームワークのドラフトに基づいて試験的な統合報告を行った後、統合報告フレームワークの開発のあるべき方向性を協議し、更に1年をかけて試験報告を続け、2013年10月をめどにプログラム全体の結果と教訓を総括する予定としている。IIRCが主導する統合報告に向けた実証実験的な意味合いからも、大いに動向が注目されよう。

(※1)非財務情報の開示のフレームワークとして、GRI(Global Reporting Initiative)が存在している実態はある。我が国においても、多くの企業からサステナビリティ・レポートなどが出され、非財務情報開示の動きが広がっている。

(※2)議長はチャールズ皇太子の秘書マイケル・ピート卿、副議長はGRI会長のマーヴィン・キング教授。チャールズ皇太子が2004年に立ち上げた"Accounting for Sustainability"プロジェクトとGRIの主導の下、企業・投資家・会計士団体・NGOメンバー等により2010年に設立された。日本からは東京証券取引所の斉藤惇CEO、日本公認会計士協会副会長の小見山満氏が参加。

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