2011年08月12日
サマリー
新再生可能エネルギーの投資は2010年、前年比32%増加
国連環境計画(UNEP)とブルームバーグ・ニューエナジーファイナンス社は7月5日、報告書Global Trends in Renewable Energy Investment 2011.を発行した。2007年以来、UNEPが中心となって毎年、前年の新再生可能エネルギー(新再エネ) への投資動向を集計し、報告書を発行している。今回発表された報告書によれば、2010年の新再エネへの投資額は2,110億ドル(80円/ドル換算で約17兆円)で前年比32%増加した。中国の風力発電所および欧州の小規模太陽光発電への投資が増加を牽引した。新再エネが2010年に世界の総発電設備に占める割合は8%に過ぎないが、昨年設置された発電設備に占める割合は34%に達し、存在感を増している(図表1)。
◆図表1 新再生可能エネルギーへの投資額推移
(出所)UNEP資料より大和総研作成。
新規投資額で初めて途上国が先進国を上回る
地域別に見ると新興・途上国での増加が顕著で、新規投資額(研究開発費および小規模事業を除く)で初めて先進国を上回った。内訳を見るとアジア・オセアニアが42%(前年比30%増)でトップシェア、欧州が25%(前年比22%減)、北米が21%(前年比53%増)と続く。南米と中東・アフリカは、シェアは9%および4%と少ないものの、高い成長率(前年比30%および108%増)を見せた(図表、左) 。
風力発電が前年比3割増でシェア7割を占めた
技術別に見ると風力が66%とシェアの大半を占め、また前年比30%増加している。太陽光は18%と風力に次ぐシェアだが、成長率は前年比3%にとどまった(ただし、ここでは小規模設置はカウントしていないため、小規模設置が多い太陽光発電の多くはカウントされていない可能性がある)。シェアの8%を占めるバイオマスは前年比4%減少し、一方シェアの1%を占める地熱は前年比43%増加した(図表、右)。
欧州での政策変更や天然ガス台頭も、新興・途上国での投資加速により総投資額は増加
同報告書は、2010年は新再エネにとって決して楽な年ではなかったと指摘する。理由は(1)欧州での政策変更(スペイン、チェコ、ドイツ、イタリアでの買い取り価格の引下げ)、(2)天然ガスの価格低迷、そして(3)温暖化対策の国際協調の停滞と株式市場での新再エネ評価低下だ。それにもかかわらず、総投資額が増加したのは、新興・途上国での投資加速に拠るところが大きい。同報告書では、新興・途上国では先進国のような充実した補助金は望みにくいものの、送電線が未整備の地域が多いこと、電力需要が急速に増加していること、また風力や太陽光などの自然資源に恵まれた地域が多いことから、新再エネがオフ・グリッドの電源として価格競争力を持ちやすいことなどが、需要急増の背景にあるとしている。
中国が新規投資の3割、うち9割が風力
なお、新興・途上国のなかでも中国の存在感は際立って大きい。新規投資額(研究開発費および小規模事業を除く)のうち、中国が占める割合は34%で、欧州(25%)や米国(21%)を上回った。中国の投資額の85%が風力への投資である。
風力開発を積極的に進めてきた中国
中国は米国と並んで風力資源に恵まれ、急増する電力需要に対応するため、2006年以降、エネルギー政策の一環として風力発電の開発に注力してきた。2009年に導入した固定価格買取制度の効果により、2010年には年間導入量は前年比20%増加し、中国は初めて累積導入量・年間導入量ともに米国を抜き世界一となった。2010年の導入量は16.5GW 、原子力発電所1基を1GWと仮定すると16基分に相当し、同年に同国で設置された発電設備の15%に相当する 。
風力への投資は減速する可能性も
ただし、同国ではこれまで設置された風力発電の約3割が送電線に接続されていないとされる 。太陽光発電が未電化の農村地域を中心に、電力自給のために設置されてきたのに対し、風力は風況のよい、人里離れた内陸部に大規模に設置されたウィンド・ファームが主で、送電線に接続されていなければ発電された電力もムダになってしまう。このことを考慮すれば、今後しばらくは風力発電の新規設置よりも送電線への投資が優先的な政策課題となる可能性があろう。2011年の新再エネ投資は、中国の風力発電への投資減速の影響を受ける可能性がある。
◆図表2 新再生可能エネルギーへの新規投資額(地域別内訳)
(出所)UNEP資料より大和総研作成。(注)R&Dおよび小規模事業を除く。
◆図表3 新再生可能エネルギーへの新規投資額(技術別内訳)
(出所)UNEP資料より大和総研作成。(注)R&Dおよび小規模事業を除く。
(※1)大規模水力を除く再生可能エネルギーをいう。
(※2)なお、ここでは小規模事業を除いた値を使っているため、欧州の小規模太陽光発電への投資額はカウントされていない。
(※3)GWEC(2011)Global Wind Report Annual market update 2010.
(※4)中国電力企業連合会(2011)「全国电力工业统计快报(2010)」
(※5)UNEP and Bloomberg New Energy Finance (2011) Global Trends in Renewable Energy Investment 2011.
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
東証が求めるIR体制の整備に必要な視点
財務情報とサステナビリティ情報を統合的に伝える体制の整備を
2025年04月28日
-
サステナビリティ課題への関心の低下で懸念されるシステムレベルリスク
サステナビリティ課題と金融、経済の相互関係
2025年04月21日
-
削減貢献量は低炭素ソリューションの優位性を訴求するための有用な指標となるか
注目されるWBCSDのガイダンスを踏まえて
2025年04月17日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日