2011年06月29日
サマリー
5月13日、電力需給緊急対策本部(※1)(本部長 内閣官房長官)より夏期の電力需給対策が発表された。東京電力から東北電力に最大限の電力融通を行うことを前提に、供給見通しは東京電力で5,380万kW、東北電力で1,370万kWとなった。それぞれの想定需要と比較すると、必要な需要抑制率は10.3%減、7.4%減とのことだ。そこに、余震の影響や老朽化した火力発電所の発電リスク等を勘案し、需要抑制目標は一律15%減と決定された(※2)。
発表資料では「需要面の対策」として、大口需要家による操業・営業時間のシフトや休業日の分散化、小口需要家によるエレベータの停止等の対策を含む節電行動計画の実行などが紹介されている。非常時の節電対策であるため、こうした経済活動の抑制や不便を我慢する対策も必要だが、留意すべきは来夏も供給量が増えるとは限らないということだ。火力発電所の新設には時間を要するし、地球温暖化の問題がある。政府は目先の節電対策に留まらず、投資を含めた中長期的な省エネルギーの実施を、より積極的に推奨・支援すべきときではないかと思われる。
そのことは、社会全体の経済的な負担軽減からも言える。震災後の"省エネルギー"は、発電所新設のコスト負担軽減に直結することとなった。例えば、10万kWの需給ギャップを解消するために、省エネ投資を行った場合(ここでは、LED照明を導入した場合)と、火力発電所を新設した場合(ここでは、ガスコンバインドサイクルが新設された場合)ではどちらが経済的か。ネットコストを比較すると、初期コストでは発電所新設が優位であるが、毎年メンテナンス・燃料コストがかかることから、6~7年後にはLED照明導入が経済的に優位となる(図表)。燃料コストの上昇や、CO2排出量を排出権でオフセットする必要が生じた場合、優位性はさらに高まる。
翻って、急速に発展するアジア諸国では慢性的な電力不足が叫ばれている。国営電力公社は電力不足を賄うために需要家の省エネルギーを積極的に推進している。日本の電力会社の場合、省エネ=売上減少という考え方があるためか積極的に推進されてこなかった経緯がある。電力不足に直面した今、アジア諸国に見習うべき点もあるのかもしれない。
(注)算出条件:ガスコンバインドサイクル(GCC)設備導入コストは20万円/kWとし、LED照明は一般的なオフィス照明(直管蛍光灯)の交換で20,000円/台として試算。尚、LED照明を白熱灯と置き換えた場合は、初年度から優位性を示す。
(出所)大和総研作成
(※1)5月16日より「電力需給に関する検討会合」に改組された。
(※2)一部緩和措置あり(医療施設、老人福祉・介護施設、衛生・公衆安全施設、データセンター、クリーンルーム、交通関係等)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
東証が求めるIR体制の整備に必要な視点
財務情報とサステナビリティ情報を統合的に伝える体制の整備を
2025年04月28日
-
サステナビリティ課題への関心の低下で懸念されるシステムレベルリスク
サステナビリティ課題と金融、経済の相互関係
2025年04月21日
-
削減貢献量は低炭素ソリューションの優位性を訴求するための有用な指標となるか
注目されるWBCSDのガイダンスを踏まえて
2025年04月17日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日