サマリー
◆取引執行手数料とリサーチ費用との分離(アンバンドリング)を定めた第2次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)の実施から5年が経過した。欧州の運用機関の大半はリサーチ費用を自己負担しているため、(運用機関が)利用できるリサーチ提供会社の数は実施前に比べ5分の1以下に減少したといわれている。また、大手投資銀行が(デリバティブや貸株など)収益性の高いサービスの販売促進にリサーチを活用し、その価格を大幅に引き下げるなどの対応をしたため、リサーチの「価格破壊」も加速した。
◆欧米の大手運用機関は、規制遵守コストの大きさ、煩雑さから欧州事業だけ別途アンバンドリングさせることはせず、その多くが世界的に導入する方向に舵を切っている。一方、規制遵守のための対応コストに比べ、市場の透明性改善という当初の目的が達成できていないとの認識が高まり、英国およびEUの規制当局は、アンバンドリング規制の一部緩和に動いている。英国では、投資リサーチに対するバイサイドの支払い方法に、執行料金とリサーチ料金とを組み合わせて請求する(=リサーチ費用のバンドル方式の復活)オプションを許容すべきとの提言がなされ、その検討が始まっている。
◆米規制当局である証券取引委員会(SEC)は2018年1月から5年以上に亘り、リサーチ対価を別途ハードダラーで得る場合でも投資顧問業者としての登録を不要とする「ノーアクションレター」を発出して、リサーチ会社のアンバンドリング対応費用の上昇を抑制してきた。しかし、SECは手数料の透明性向上と利益相反の抑制のためアンバンドリングの適用を進めるべく、これを再延長しない方針を2022年秋時点に示し、遂に当該「ノーアクションレター」は2023年7月3日に失効した。
◆成長企業を見抜いたり、景気の方向性を的確に予測できたりする優秀なアナリストやエコノミストに対してであったとしても、アンバンドリングが浸透した欧米では、再度、高額な手数料を支払うことには抵抗があるのが実情である。今回の米国の「ノーアクションレター」の失効を機に、アンバンドリング導入の動きがさらに加速してくる中、日本を含むアジア地域の規制当局も導入を検討せざるを得ない状況が顕在化してくると考えられる。日本で求められている資産運用業高度化のもうひとつの課題として、リサーチ費用のアンバンドリングの議論を無視することはできないといっても過言ではない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
決着しない受託者責任とESG投資の関係
共和党・民主党の対立の中で議決権パススルーの有用性が高まる
2025年09月19日
-
米国401(k)プランにおけるターゲット・デート・ファンド導入の効果
若年層の株式比率上昇に伴う資産拡大と株式直接投資への波及効果
2025年08月13日
-
ISSが取締役兼務数基準の導入を検討
取締役の兼務が多すぎる場合、選任議案に反対投票推奨へ
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日