2014年08月06日
皆さんは日頃、「イノベーション」という単語をどのような場面で用いているだろうか? 製品そのもの(「プロダクトイノベーション」)やその製造工程(「プロセスイノベーション」)といった、どちらかと言えば社内のものづくりに対して目を向けるイメージを強く持たれることが多いのでないだろうか?
イノベーションという単語については、これまでも幾多の識者により様々な定義がなされてきたが、実はそうした定義の多くでは、イノベーションの対象を社内のものづくり的な側面だけでなく、ビジネスモデル全体と捉えている。一方、ビジネスモデルという単語についても多様な定義がある中で、誤解を恐れずにあえて単純化して述べれば、それは顧客に対して価値をいかに提供するかの概要設計と言える。同様に、顧客価値についても様々な定義があるが、ここでは「顧客がそれまでより有効に、あるいは確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける商品やサービスの提供(※マーク・ジョンソン;池村千秋訳『ホワイトスペース戦略』阪急コミュニケーションズ、による)」との定義を採用したい。そう考えると、本来イノベーションとは、社内のものづくりの側面という狭い領域だけで捉えるのではなく、顧客価値提供のプロセス全体を対象に、いかにその価値を高めるのかにその本質がある。すなわち、イノベーション実現には、社外の顧客に対する視点が必要不可欠なのである。
このことは、具体的にはどういうことを意味するのだろうか。例えば、貴社内でこれまでイノベーション創出を期待されているセクションはどこだろうか? 開発であろうか? マーケティングであろうか? 上記によれば、セクションを問わず、イノベーション創出には顧客視点が求められることになる。例えば、開発であれば、自社開発製品がどのように顧客から評価されているかを定期的にチェックする仕組みを作る、マーケティングであれば、商品開発に営業からの声を反映させる、等があるかもしれない。つまり、製品開発から販売・サービス提供までのバリューチェーンの中で決められた自部署の役割を超えて、顧客視点を確認・反映することが可能となるような横連携の仕組み・動きが求められるということである。もっと進んで、全社内にイノベーションを求めるのであれば、全社内が連携して顧客価値を考えられるような仕組みや行動ということになる。実際、本社管理部門にとっての顧客は現業部門であると考えれば、業務革新というイノベーションが必要なのは、本社管理部門にもあてはまる。
但し、一部のイノベーション成功企業を除き、一般的な企業では、上記を実現するのは容易なことではない。まず、部門同士の組織の壁が立ちはだかる。改革に消極的な反対派による抵抗も想定される。こうした障壁や抵抗を乗り越えて横連携の動きを進めていくだけの覚悟とパワーが社員一人一人に求められる。しかも、一たび乗り越えたとしても、こうしたイノベーションに対する強い意志を持つ人材を社内にどれだけ持てるか、また、強い意志を全社の方針/考え方として共有し、各々の活躍の場を用意できる組織運営ができるか、がクリアできないと、こうした動きが一過性のものに終わってしまう。
このように見ると、イノベーションを実現できるか否かの次には、単なる一過性のイノベーションの実現か、再現性ある「イノベーション経営」の実現かという、ハードルが待ち構えている。企業は、イノベーション経営の実現に至って初めて、イノベーションを継続して創出できるようになるのである。
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