2009年03月11日
私はエコノミストではないので詳しくないが、いま私たちが経験している「100年に1度の経済危機」というものは、一般的な「景気循環論」では到底語り尽くせない問題が孕んでいるのではないか、という気がする。理論上は、不況の次には景気回復局面がくる、その回復局面を早く実現させるためには、政治や行政の力をもって景気刺激策をやればよい、といった単純な方程式が、昨今の状況には通用しないのではないかと思う。
私たちはいま、単純な景気循環の曲線上に立っているのではない。敢えて大胆な言い方をすれば、「旧時代」から「新時代」への劇的なパラダイムシフトを目前にしている。つまり、社会の在り方や、そこに生きる人々の思考や発想が、急速な変貌を始めようとしていることが、世の中の諸現象から見て取れる。
歴史を通観すれば分かることだが、「新時代」に生きる人間は、「旧時代」のモノはあまり買わない。そんな時代に、オーソドックスな(悪く言えば、陳腐な)マクロ経済的景気対策をやったところで、無力に近い。
では何をすればよいのか?「新時代」に生きる人々が必要とするモノを企業が提供すること、それに尽きる。
職業柄、経営者の方々とお話する機会が多い。最近お会いしたある小売業の社長が、「不況でモノが売れないなんて嘘だ。皆、欲しいモノがあれば、買う。」と力強くおっしゃっていた。シンプルな言葉の中に、真理が含まれていると感じた。逆に言えば、「欲しくないモノは断じて買わない。」ともおっしゃりたかったのであろう。
卑近な例えで恐縮だが、私自身クルマの運転が下手だし、特に必要性も感じていないのでマイカーは持っていないが、そんな私でも“絶対衝突しない超安全なクルマ”が世に出れば「買おうかな」と思うかもしれないし、最近話題のカーシェアリングサービスが近所にあれば、入会を検討するかもしれない。
企業は「新時代」を生きる人々の嗜好に適合したモノを市場に提供すべきである。しかしそれには、マーケティングや技術革新を含めかなりの時間を要する。時間がかかるにも関わらず、ここ十数年来の過剰な株主重視主義が、企業に「短期的な利益の追求」を過度に強いてしまった。そして、大局的な視点から「新時代」の潮流を掴み、それにふさわしいモノを創出する余裕(時間的余裕と精神的余裕)を、根こそぎ奪ってきた。
この度の不況を省みる場合、そうした企業マインドの視座に立つ必要があろうし、政治や行政にも、新時代の到来を多分に意識した政策立案を望みたい。
以上、最近経営コンサルタントとして仕事の現場に臨む際に、常に頭の中にある諸々である。
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