ものづくり再生

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 神谷 孝

「ものづくり」という言葉には、どこか郷愁を感じさせ、その言葉を口に含むと何か安心できるような感覚がある。これが、生産技術や製造技術などと表現されると、何だかとても工業的で、冷たさを感じる。「ものづくりの心を・・・」、「ものづくりの原点に帰る」という言い方は、どこか温かく、まるで日本人のアイデンティティーの一部を形成している気さえする。


ただ、表現する言葉がどうであれ、日本企業のものづくりが直面している現実が厳しいことには変わらない。昔の繊維産業、造船に始まって半導体などに至るまで、日本の製造業は海外勢に勝てなくなってきた。機械、自動車産業が、今もなお世界をリードしていることは救いだが、半導体、情報通信機器、テレビ等における電機産業の凋落ぶりは、日本のものづくりに対する自信を失わせている。


そうなった原因の一つとして、日本企業のものづくりに対する過剰なこだわりがあったのではないかと考える。ものづくりを「もの」と「づくり」に分けると、日本企業は「づくり」に対する強いこだわりと自信を持っていた。また、「づくり」の強化こそが「もの」の価値を高める最も重要な要素であるとさえ考えた。しかし、結果は現状のとおりである。台湾などでのEMS、ファウンドリといった「づくり」だけを行う専門の企業が出現し、それらに対抗できなくなった。その間、「づくり」に頼る余り、「もの」自体への注力が後手に回った。郷愁を誘う「ものづくり」という表現は、マジックワード的な、ある種危険な言葉であったのかもしれない。


さて、インターネットの登場によって、産業界では、流通、サービスにおける情報の活用が急速に進み、価値を届けること、価値を提供することへのハードルが大きく下がってきた。今後は、その流れがさらに川上に遡上し、EMS等だけでなく、3Dプリンター、ロボット等の進化も加わって、製造過程におけるハードルも大きく低下する可能性がある。そうなると、ものづくりとは、極端に言えば、固有の技術や、それによって新たに生み出す価値、および、それらを具現化したデザインという要素に絞られてしまう。「づくり」ではなく、「もの」に対する強いこだわりが、ものづくり再生の起点となろう。


そして、ミクロで見れば、「づくり」へのこだわりよりも、「もの」の革新に注力した日本企業も少なからずあり、成長力、収益性において大きな成果を出している。また、徹底して「もの」の価値向上にこだわり、業界地図を変えんとする企業も出てきている。一方で、そうした改革に乗り遅れた企業も多く、同業の中でも苦しい状況が続いている。ものづくりの改革はこれからが本番。「づくり」への過剰なこだわりを捨て、最適なバリューチェーンに向けた改革を実行すると同時に、「もの」の価値を高める方向に変えていくことではないだろうか。大和総研では、これら一連の事業改革のお手伝いを含め、新規事業や新製品開発における価値を重視した事業化プロセスのご支援に取り組んでいる。

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