空港経営改革には民間発想の成長戦略が不可欠

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  • 平井 小百合
国管理空港の民間への運営委託に向けた改革が動き出した。これは、国が一括して整備・維持運営してきた28空港(関空との経営統合が決まった伊丹を除くと27空港)の国管理空港の経営を、可能な限り個別空港毎に民間へ運営委託するというものである。

この背景には、世界の空の急速な変化、すなわち、オープンスカイの進展とLCC(格安航空会社)の台頭による航空会社間の熾烈な競争がある。

競争が激化する航空業界と同様に、空港の事業環境は厳しい。空港運営の効率化を進めるとともに、徹底したマーケッティングによりターゲット旅客を把握し、航空会社に潜在需要がある路線を提案する等、戦略的に航空便を呼び込むことが空港にとっての必須課題である。まさしく、空港は「整備」の時代から「運営」の時代を飛び越え、一気に「経営」の時代に突入している。

しかし、一足飛びに民間への運営委託ができるわけではない。国管理空港の運営体制には問題がある。日本の国管理空港は単年度予算の空港整備勘定というプール制のなかで一括して整備・維持運営されてきたため、個々の空港単位での効率化に向けたインセンティブが働く仕組みがない。さらに、空港の航空系事業と非航空系事業の運営主体が別々である。つまり、空港使用料等の航空系収入を生み出す滑走路等の基本施設と土地を国が所有・運営する一方、物販や飲食、駐車場等の非航空系収入を生み出す空港ターミナルビル等の空港関連施設を民間企業(多くは地方自治体も出資する三セク)が所有・運営している。このように空港機能の運営主体が別々であるため、ガバナンスが効きにくく、非航空系収入を原資に利便性の良い施設整備、着陸料の低減等を行い、より多くの航空便を誘致するという効率的なビジネスモデルが構築されていないと考えられる。すなわち、国管理空港の経営改革にあたっては、国管理空港を空港整備勘定というプール制から抜き出し、個別空港毎に航空系事業と非航空系事業の経営一体化が重要な課題となる。

今般の空港経営改革は2011年5月に成立した改正PFI法を基としている。そのポイントは、公共施設等運営権を創設し、運営権と所有権を分離することである。これにより、国が土地と基本施設の所有権を維持し、航空系事業と非航空系事業を一体的に運営する権利を民間企業(または複数の民間企業連合)に30年等の期限付きで譲渡または売却する方針である。民間企業にとっては運営権に抵当権の設定が可能であるため、融資を受けやすくなること、土地や施設の購入でないため、固定資産税がかからない等のメリットがある。

空港経営改革のスケジュール

空港経営改革のスケジュールは上記の図のとおりである。

空港経営改革のさらなるポイントは、民間からの提案制度の導入であろう。マーケット・サウンディングでは、それぞれの空港の個別事情を踏まえた運営形態や経営手法を民間サイドから提案するのである。勿論、経営一体化する事業の範囲や複数の空港をグループ化して経営することを提案しても良い。国土交通省によると、マーケット・サウンディングの結果を受けて、民間事業者への運営委託手法等の具体的検討がされる予定である。

また、民間への運営委託は航空系事業と非航空系事業の経営一体化を前提としている。これについても、空港ターミナルビル会社等から提案していくべきである。経営の一体化については様々な方法が考えられる。空港ターミナルビル会社等の空港関連施設事業者が、国がコンセッション契約を締結する民間企業/民間企業連合にターミナルビル等の施設を売却する、もしくは賃貸・リースすることが考えられる。また、空港ターミナルビル会社が単独で国とコンセッション契約を締結する、または施設を現物出資し、民間企業連合に参画することも一案である。

提案は当然ながら国から評価される。空港経営改革が目指すのは、空港の成長戦略を打ち出せる事業者が空港の運営権を獲得することである。従って、参入希望の民間事業者は、それぞれの空港の特徴を加味し、着陸料低減による航空便誘致のビジネスモデルの構築、非航空系収入の拡大、事業開発等、民間ならではのアイディアによる空港の成長戦略を提案することが肝要である。

しかしながら、人口の減少、新幹線との競争等により、成長ストーリーが描きづらい空港も多い。こういう空港にこそ、民間の知恵の導入が求められる。空港事業は地域との連携が欠かせないことから、地方自治体や地元経済界が先頭に立って、ノウハウある民間事業者に可能な限り委ねる方向で、空港運営形態や経営手法について提案していく必要がある。

なお、改正PFI法を適用できるように空港法が改正される予定である。民間への運営委託(コンセッション)制度の大枠は、空港法で決定され、詳細は空港毎の個別契約で国との交渉により決定される。これまでPFI事業で失敗が多いのは、国と民間の双方の理解や意思疎通の不足が主な理由の一つである。契約条件は民間事業者からの提案をもとに国との交渉により決定されるため、民間事業者は積極的に実現性ある空港の成長戦略を提案し、国とのリスク分担についても、詳細に詰めていく必要がある。また、そうした成長戦略を策定するうえで重要なポイントはグローバルな視点に立つことであろう。

発展するアジアの中で日本の各地方がどのように生きていくのか。その重要な鍵を空港の経営戦略が握ることになる。

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