世界規模の消費減退の影響は、日本経済にも広く及んでいる。企業業績見通しには「赤字」「減益」という言葉ばかりが目に付く。


気になるのは、ここ数年の景気拡大期に議論されてきた、競争力向上のための施策など吹き飛んでしまったように感じられることだ。主な施策には例えば「人材育成」や「IT活用」があり、それぞれの在り方の議論と実践に時間が割かれてきた。


だが、現実には多くの企業で人員削減が行われている。ミクロ経済学において「長期」とはすべての投入要素(資本と労働)が可変である期間を指すのに対し、「短期」とは労働投入のみが可変である期間を指す。やはり企業が短期に調節できるのは労働投入しかないのかと割り切ってみても、ならば人材育成の議論は何だったのかという呟きが聞こえてきそうである。


では「IT活用」はどうか。情報や情報システムは資本の一部であり、短期に投入量を変えられないとすれば、これを活かす以外に道はない。改めて、情報が企業活動に及ぼす主な影響を整理してみると次のようになる。
 1)情報の流通がスムーズになることによって、ビジネスプロセスが効率的になる
 2)情報の収集・分析を通じて、新たな顧客ニーズを発掘できる
 3)情報漏洩や情報の隠蔽行為がもたらす脅威に事前に対処する
所与の経営環境の下、企業にはこれらに経営資源をバランスよく充当する情報戦略が求められる。ただ、情報と情報システムが本来的に持つ性質から、1)と3)への意識が相対的に高かったのではないか。


改めて今日の情報戦略を考えてみると、2)のウェイトを高めるべきであろう。1)はコスト削減にはつながるものの、人員削減を実施せざるを得ないような昨今の状況を打破する特効薬にはならない。また、3)は収益向上に寄与する性格のものではない。いま求められているのは需要を創出するための情報のハンドリングであり、それを実行できる人材である。情報を通じて需要を喚起・創出できる力こそIT活用における競争力そのものであり、持続的成長の原動力になりうる。現在の経営環境が、この競争力を持ちえる契機となることを期待したい。

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