2013年05月01日
BCM(BCM: Business continuity management)とは、リスクが発生した際に企業が事業を継続していく際のマネジメント手法であり、日本企業のリスク対応力を強化する有効な手段として導入が進んできている。さらに、東日本大震災やタイで発生した大洪水の際にサプライチェーンが寸断されたことにより事業が継続できないといった事態が生じた。この経験を通じて、BCMが経営上の重要課題であること、企業間の連携の重要性が経営者の間で認識された。さらにBCMを社内に浸透させ、より実践的なものにしていくための訓練の重要性もわかった。しかしながら、企業間連携に関する具体的な取り組みは必ずしも進んでいない。内閣府が2011年11月に実施したアンケート調査によれば、取引先との連携訓練の実施率は大企業でもわずか8%に留まっている。取引先その他のステークホルダーとの連携を通じてサプライチェーンを維持し、重要な事業を継続するという観点から、BCMの見直し構築が急務となっている。
個別企業対応から企業間連携へ
このような状況を踏まえ、内閣府では、2013年4月に企業間の連携訓練を普及・促進するための新たなBCM手法「連携訓練の手引き」を公表した。連携訓練の全体像を、初動から応急、復旧、復興に至るまでの時間軸と、点・線・面・層の4つに分類した連携範囲とのマトリクスで表現したツールが紹介されている。このマトリクスを活用すれば、取引先を含む複数の企業で連携訓練を実施する場合であっても、細分化したテーマで部分的に訓練を行うことが可能となる。部分的な訓練の事例としては、①通信訓練、②被害情報共有訓練、③サプライチェーン継続訓練、④マネーチェーン継続訓練を挙げており、連携訓練の普及を加速させるための新しい画期的なマネジメントツールである。今回の手引きでは企業間連携が中心だが、今後は面レベルでの地域連携や業界連携、層レベルでの官公庁や指定公共機関連携などにも対応できるように内容を充実させていくべきであろう。

(出所)内閣府資料「連携訓練の手引き」より
ボトルネック分析と連携訓練で現場力を高める
サプライチェーンを維持するためのBCMにおいては、まず、継続すべき事業のサプライチェーンに関連する経営資源を洗い出したうえで、ビジネスインパクト分析から問題点や事業継続のボトルネックを抽出し、有効な対応策を検討することが重要である。そのうえで、対応策をより企業の実態に即したものにするために各部門に周知徹底し、取引先を巻き込んだ連携訓練を行うことで、想定外の事象が生じた場合にも柔軟に対応できるよう現場力を高める。訓練によって明らかになった課題を解決することは、平時における現場力の向上、取引先とのコミュニケーションの改善、さらに業務改善にもつながる。
サプライチェーン(参考イメージ)

(出所)大和総研作成
経営者の積極的な取り組みが重要
現場力の強化は重要なポイントであるが、現場の対応だけでは十分とはいえない。例えば、複数の部門や企業にまたがるサプライチェーンを維持するケース、寸断されたサプライチェーンに対して代替的な手段を講じるケース、急変した市場環境に対してビジネスモデル自体を変化させる必要性が生じるようなケースなどへの対応は現場だけではできない。このような場合に備え、BCMに対する経営者の積極的な関与とリーダーシップが不可欠である。また、普段から事業継続に重大な障害が生じることを想定し、経営レベルでの対応を検討しておくことが有効である。
「連携訓練の手引き」においては、いくつかの訓練方法が提示されているが、机上訓練、ワークショップ訓練、ロールプレイング訓練は、想定外の事態が生じた場合の経営陣の判断力・対応力を高める手段として有効であろう。テーマは地震など自然災害のみならず、市場環境の急変、例えば重要な取引先の事業停止や敵対的買収なども考えられよう。
「連携訓練の手引き」を避難訓練マニュアルの延長上にあるものと見るのではなく、経営力、現場力を高め、企業価値を高める「次世代型BCM」ツールとして理解し、活用していただきたい。
当社では、サプライチェーンを含む重要な経営資源の洗い出しから、ボトルネックに係るビジネスインパクト分析、問題点の改善、BCM体制の見直しなど、経営視点からのBCM関連ソリューションを提供しています。お気軽にご相談下さい。
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