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公的年金改革が迫るなか、退職給付会計基準改正へ

2011年10月05日

経営コンサルティング部 主任コンサルタント 増田 幹郎

公的年金の支給開始年齢がまた引き上げられる方向にある。今年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部が決定し、同7月1日に閣議報告された『社会保障・税一体改革成案』では、公的年金について「新しい年金制度の創設」に取り組みつつ、年金改革の目指すべき方向性に沿って、現行制度の改善を図ると示している。その具体策の一つに、「支給開始年齢の引上げ」が挙げられており、先進諸国(欧米)の平均寿命・受給開始年齢を十分参考にし、高齢者雇用の確保を図りつつ、68~70歳へのさらなる引上げを視野に検討、とある。現在でも老齢厚生年金は制度上65歳まで支給開始年齢が引き上げられているため、サラリーマンにとっては定年年齢から年金の支給開始までの“無年金期間”における生活資金確保への対策が課題となっている。高年齢雇用継続策が採られて来てはいるが、その“期間”が延びることは避けられないようだ。

サラリーマンにとって、その対策に大きな期待を寄せるものの一つはやはり企業で準備する退職金・年金である。国としても、「国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」を目的とした新たな企業年金制度(確定給付企業年金、確定拠出年金)を整備して支援策を整えている。いずれも平成24年3月末で廃止される適格年金制度の移行の受け皿という側面もあるが、確定拠出年金は「従業員個人が運用リスクを負う」、「原則60歳までは受給不可」という従来型制度とは大きく異なる特徴等があり、これを受け容れ難い企業では、確定給付企業年金を移行先に選択する傾向がある。確定給付企業年金は適格年金とほぼ同様な制度設計が可能な場合もあり、大きな変更もなく移行できたと評価する企業も多い。しかし確定給付企業年金は法の目的どおり年金での受給を強く意識させる仕組みを持ち、実際に適格年金から移行した企業のなかには、これまでは一時金での受給を選択する退職者ばかりであったが、今後は年金受給選択者が増えそうだとの声を聞くところもある。確定給付企業年金に代表される給付建ての企業年金制度において年金受給者が発生する(増える)ということは、企業が認識する退職給付債務(PBO)が増加することになり、企業の負担が増えることを意味する。一方で、年金受給者が既に存在する企業においても、PBOが一時的に大きく増加する可能性が出てきた。今般予定されている退職給付会計基準の改正にはPBOの計算手法の変更が含まれているためである。

PBO計算手法の変更内容の一つ「割引率設定基準の変更」では、従来従業員の平均残存期間(従業員が退職するまでの平均期間)に基づいて割引率を設定していたものが、給付見込期間ごとにイールドカーブを用いた複数の割引率を設定する方法を用いるか、または、この方法とほぼ同結果となることを前提に、給付見込期間ごとの退職給付金額を加味した単一の加重平均割引率を設定する方法を用いるか、を選択する方式に変更される。

具体的には、1年後の支払いには1年の金利、2年後の支払いには2年の金利、10年後の支払いには10年の金利を割引率に用いることになる。一般に(順イールドの場合)、短期の金利は低く、長期になれば金利は高くなるため、短い期間での給付(キャッシュアウト)が相対的に大きい場合、すなわち、年金受給者が多い場合等には、低い金利による割引の影響が大きくなるため、PBOの増加要因となる。従来、割引率の決定プロセスにおいて受給権者の年金支払いを考慮せず、従業員の平均残存勤務年数のみで期間を考慮していた場合などは注意が必要である。

なお、今般予定されているPBO計算手法の変更内容には、割引率設定基準の変更の他、退職給付見込額の期間帰属の設定方法の変更も含まれている。企業毎の退職給付制度の内容、従業員の年齢構成により異なるが、前記の割引率設定基準の変更の影響とあわせて、新基準で計算されたPBOや勤務費用が、現行基準での計算結果から大きく変動する可能性があり、会社決算にも大きな影響が出る場合もある。従業員からの期待とその役割の重要性がより一層増すなかでの退職給付会計基準の改正となり、企業においてはその基準適用に向け、万全な対応が求められるであろう。

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