ハイブリッド型は退職給付会計基準改正後も有効か

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  • データアナリティクス部 主任コンサルタント 逢坂 保一
ハイブリッドと言っても自動車のことではない。自動車の場合はガソリンエンジンとモーターの2つの動力源を持つ自動車であるが、年金制度の場合は確定給付企業年金制度(以下、DB制度(※1))と確定拠出年金制度(以下、DC制度(※2))のそれぞれの特徴を併せ持った年金制度のことで、日本では、DC制度の特徴を併せ持ったDB制度の位置付けでキャッシュ・バランス・プラン(以下、CB制度(※3))が実施されている。
企業年金連合会の調査によると、CB制度の導入割合は、DB制度を採用している企業のうち、2009年度では46.9%となっている。
CB制度は、「持分付与額」と「利息付与額」との合計によって仮想的な個人勘定残高を設定して、その累計額を給付額の算定基礎とする仕組みである。「持分付与額」は給与などの一定割合として決められ、「利息付与額」は指標利率(国債などの利回り)による利息額となる。個人勘定残高はこの指標利率により変動することになる。また、年金受給額もこの指標利率に連動し、受給中だけ変動させる制度を疑似CB制度という。従来型のDB制度と比較すると会計上の負債が安定的に推移することがメリットであり、経済情勢等により将来の受取額が左右されることがデメリットとなる。
メリットである、従来型のDB制度と比較すると退職給付会計上の負債である退職給付債務(以下、PBO(※4))が安定的に推移することについてみてみる。景気低迷時には金利が低下するという前提では、割引率の引下げによってPBOは増加するが、指標利率引下げによって給付見込額が減少することでPBOは減少し先のPBO増加と相殺されて、従来型に比べてPBOの変動が小さくなる。景気好転時はその逆の動きとなる。このPBOの安定効果が企業が多くCB制度を採用する主な理由であろう。
この効果は、退職給付会計基準の改正後も有効である。2012年3月末より改正が予定されている退職給付会計基準では、資産と負債の積立不足(年金資産とPBOの差額)をそのまま企業のB/Sに負債計上することになり、積立不足の大きな企業はB/Sに与える影響が大きくなる。現在は積立不足を一定期間で償却することによりPBOの変動を吸収してきたが、改正後は変動をダイレクトに受けることになる。CB制度であれば、負債サイドのPBOの変動を抑制することにより、積立不足の変動はある程度抑制することが可能となる。
CB制度の問題点・課題はいくつかある。CB制度の指標利率が必ずしも割引率と連動するとは限らない。これは例えば指標利率に国債の平均利回りであるとか、国債に一定利率を上乗せした率、上下限を設定した率を適用することが認められているが、この場合、最大のメリットであるPBOの変動抑制の効果が小さくなってしまう。また、会計基準改正時における割引率の設定方法の変更(※5)によって、設定変更により割引率が変動する場合にも注意が必要だ。割引率は変動しても、給付を決定する指標利率に連動しなければ、PBOの相殺効果はなくなる。
この対処法として、例えばPBO算定上用いた割引率を指標利率とすれば、割引率が変動したとき指標利率も連動しCB制度の効果を得ることが可能となる。ただ、現行DB制度では法令上認められていない。年金制度ではなくなるが、退職金の給付算定式に取り入れることはできる。
また、CB制度は負債サイドの変動リスクは抑制できても資産サイドの変動リスクを抑制させることは難しい。CB制度の負債に連動した資産運用は容易ではないからである。これに対しては、指標利率に年金資産を構成する各資産クラスのインデックスを収益率としたCB制度の導入も提言されている。負債を年金資産に連動させることにより、運用リスクを軽減することが可能となる。また、CB制度は負債サイドの変動リスクは抑制できても資産サイドの変動リスクを抑制させることは難しい。CB制度の負債に連動した資産運用は容易ではないからである。これに対しては、指標利率に年金資産を構成する各資産クラスのインデックスを収益率としたCB制度の導入も提言されている。負債を年金資産に連動させることにより、運用リスクを軽減することが可能となる。
このようにCB制度の指標利率は現在国債利回り(その他消費者物価指数や賃金指数など)に限定されているが、PBO計算上の割引率や資産サイドの運用利回りを指標とするなど指標利率に自由度を持たせることにより、会計上のリスクや資産運用リスクを軽減することが可能となる。
CB制度以外のハイブリッド型年金制度には、DB制度の特徴を併せ持ったDC制度や、DB制度とDC制度を一体で運営する制度としてハイブリッド型年金制度についても研究されており、海外では実施されている制度もある。
確定拠出年金法、確定給付企業年金法(※6)が施行されてそろそろ10年になろうとしている。大きく変化する会計基準、年金資産の運用環境、人事制度施策など企業年金を取り巻く環境に対処し持続可能な制度とするには、既存の枠組みを超えたハイブリッド型年金制度の整備が待たれるところである。
(※1)Defined Benefit Plan:確定給付企業年金制度
(※2)Defined Contribution Plan:確定拠出年金制度
(※3)Cash Balance Plan:キャッシュ・バランス・プラン
(※4)Projected Benefit Obligation:予測給付債務(退職給付債務の評価方法の一つ)
(※5) 割引率の設定方法の変更:改正後は「イールドカーブを用いた割引計算」、実務上の観点から「給付見込期間及び給付見込期間ごとの退職給付の金額を反映した単一の加重平均割引率」も認められる
(※6)確定拠出年金法:2001年10月施行、確定給付企業年金法:2002年4月施行

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