2010年05月26日
国債発行がいよいよ税収を超える水準となり、増加の一途をたどる政府債務残高であるが、それでもなんとかやっていけるのは、厚い個人金融資産を背景に国内で買い支えることができるからである。なので国内で消化しきれなくなったときが潮目といえようが、個人金融資産にまだ余力があるからしばらくの間は大丈夫だという考え方がある。これについてみてみたい。
次の図は国、地方及び企業部門の債務残高と個人金融資産の推移を示したものである。債務残高は長らく増加傾向をたどってきたが、1100兆円の大台に乗った1998年ころに一服し、その後は概ね横ばいで推移している。一方その内訳には大きな変化があった。企業債務が1995年度を境に減少傾向に転じる一方、国及び地方債務の増加ペースは加速して、1999年度には国及び地方のシェアが企業債務を逆転。以降その差は拡大しつつある。企業債務が減る一方で、その空いた分を膨張する国及び地方が埋めたような格好だ(※2)。
このころ、民間企業はバブルの後遺症による過剰債務に悩んでいた。有利子負債残高が月平均売上高の何か月分に相当するのかを示す指標で借入の大きさを意味する「有利子負債月商倍率」の推移をみると、1981年度から14年連続で上昇していたが、94年度をピークに下降線をたどっている。嵩張った債務を約10年かけて減らしたことにより、2007年度になって有利子負債月商倍率は上昇前の水準に戻った。過剰債務の調整プロセスはようやく一段落したようだ。
一方、個人金融資産はこれまで一定のバッファを持ちつつ総債務残高を上回る水準で推移してきた。資金需要は国内の個人金融資産で賄うことができた。個人金融資産が、銀行、保険、年金その他の金融機関を巡り巡って最終的に民間企業あるいは国、地方自治体その他公的部門の借入金に転じるまでのフローがほぼ国内で観察できた。

そしてこれからどうなるか。国及び地方の長期債務残高はこれからも増加してゆくと見込まれている。しかしこれからは、ここ10年と同じような傾向をたどる、つまり国及び地方の長期債務残高が増える分だけ企業債務が減少してゆくとは限らない。過剰債務の整理が一服し攻勢に転じた企業部門が資金調達を積み増す可能性もある。裏づけとなる個人金融資産の伸びも、人口減少が見込まれる中では限界があろう。もしかしたら、膨張を続ける国及び地方の債務が国内で消化しきれなくなる潮目の到来は、皆が思うより遠い話ではないかもしれない。
(※1)図の出所
国と地方の長期債務残高:財務省企業債務残高:法人企業統計(金融保険業を除く全産業、全規模)、金融機関借入金と社債の合計値。
有利子負債月商倍率:(国と地方の長期債務残高+企業債務残高)/(売上高÷12)
なお、「売上高」の出所も法人企業統計(金融保険業を除く全産業、全規模)
個人金融資産=資金循環統計
GDP:国民経済計算(実質、年度)
(※2)このことは国内銀行の預貸率低下にも現れている。
(※3)国と地方の債務膨張が限界に近づいているからこそ、地方財政の「見える化」を通じた調整作用の発動が期待されるところ。次の記事も参照されたし。
「事業利回りの低下、そうした時代の資金循環のあり方」(2010年4月7日付大和総研コラム)
「レベニュー債はなぜ実現しないのか」(2009年12月9日付コンサルティングインサイト)
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