インバウンドもモノ消費からコト消費へ、欧米豪諸国も視野に

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  • コンサルティング第一部 主任コンサルタント 岩田 豊一郎

JNTO(日本政府観光局)の調べによると、訪日外客数は2016年が年間で約2,400万人であったのに対し、2017年はあと1四半期を残した1~9月の集計段階で既に約2,120万人に達し、2017年も過去最高を更新する可能性が高い。こうした環境下、日本中でインバウンド拡大に向けた観光振興の取り組みが活発化している。


他方で、訪日外客数が増加する中でも、観光動向の実態には変化が見られる。中国からの訪日旅行者1人における訪日1回あたり買物代が既にピークアウトするなど、爆買い傾向も落ち着きつつある。また、訪日外客数の伸びと比例するように、訪日リピーターも増加しており、従来の首都圏、関西圏、北海道、九州北部などの大都市圏や有名観光地に限定された観光に留まらず、地方圏にも足を延ばす動きも本格化する兆しが見られる。


以上のようにインバウンドの実態も変化しつつあり、この動向に対応した観光振興が求められる。特に従来は訪日外国人旅行者が少なかった地方圏は大きなチャンスを迎える一方で、多くの観光地域がインバウンドの競争に加わることになるため、的確な顧客対象の絞り込みと戦略が求められる。


そこで、訪日外国人旅行者が日本旅行に求めるものを把握するために、訪日旅行者をアジアからと欧米豪からに分けて、訪日前の期待事項を比較したのが図表1だ。

図表1.訪日前に期待していたこと【複数選択有】

一般的な海外旅行の目的となる、食、自然・景勝地観光、繁華街の街歩き、ショッピングなどの大都市圏や有名観光地における定番の観光版モノ消費と言える行動は、アジアと欧米豪を問わず期待度が高い。他方で、欧米豪平均とアジア平均の比を相対人気度として上位をみると、伝統や現在を問わず、より日本の文化に根差したものや、体験性の高い観光版コト消費と言える項目への期待が欧米豪において高いことが分かる。


コト消費に対応するには、モノ消費以上に差別化が重要になるため、地域の独自性を活かした観光戦略が有効であり、地方圏にとっては欧米豪の訪日外国人旅行者は特に重要なターゲットとして期待される。そこで、欧米豪のみを対象に、リピーター化も視野に入れて、訪日前(訪日前に期待していたこと)、訪日中(今回したこと)、次回(次回したいこと)の比較をしたのが図表2だ。

図表2.訪日前の期待、訪日中にしたこと、次回したいことの欧米豪平均【複数選択有】

訪日後に最も期待度が上昇するのが四季の体感だ。我々自身は日本の四季を売りとしているが、訪日経験が少ない外国人旅行者には認知されていないことがわかる。四季の体感であれば、多様性があり、多くの地方圏にとっても欧米豪の訪日旅行者は潜在的な顧客と言えるだろう。また、スポーツ観戦や舞台鑑賞も相撲や歌舞伎等の伝統文化の疑似体験とも考えられる。加えて、スキー・スノーボードや温泉等も地域によっては有力な観光資源となるだろう。


更に興味深いのは、自然体験ツアー・農漁村体験の期待度上昇だ。「多様な自然を観ることに留まらず体験をしたい」、「自然を背景にした日本の美しい農漁村の生活を体験したい」と言ったニーズがある訳だ。こうした体験は地域の自然・文化・生活を組み合わせることで様々なニーズに対応したサービスが提供可能であり、それはリピーターの獲得にもつながるであろう。そして舞台は自然であり、まさしく地方圏にとって潜在的なチャンスが大きい分野と言える。


近年、中国を中心としたインバウンドブームが続いているが、中国における年間出国者数が1億人を超える一方で、ドイツは8千万人、英国は6千万人を超えている。欧米豪の海外旅行者規模はアジアに劣らないことに加え、所得水準も高く、そしてディープな日本を求めている。観光産業を起爆剤とした地方創生を目指す地方圏にとっては、その独自の地域資源を活用した、欧米豪の海外旅行者をターゲットとした戦略の検討と実践は有力な選択肢と考えられる。そして、それは所得水準が向上し、海外旅行が一般化した将来のアジア諸国からの訪日外国人旅行者への対策にもつながると言えるだろう。

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